国王としての器
ルシフェルとクラウリーが去った後、ボロボロに崩れた謁見の間は妙な静けさに包まれた。
遂に……目覚めてしまったんだ。
神ですら警戒する偉大なる御方……いや、ルシフェルが目覚めた。
確か──神に最も近づいた存在で、神に逆らったのが原因で千年もの眠りについてたんだっけ。
そんな長い年月もの間眠りについていたルシフェルが目覚めた。
それは即ち──この世界に災禍が訪れるということだった。
「────ウィル様……」
考え事をしているとシェナが寄ってきた。
僕が戦いに疲れ絶望していると思っているのだろう。
彼女の表情は不安で満ちていた。
国王陛下も近づいてきて、僕の前にしゃがむ。
「ウィルよ。この国を救ってくれてありがとう。本来ならばワシがこの国を守らねばならなかったのだが、お前に任せすぎた。すまない」
「陛下、謝らないでください。この国の人間として戦ったまでです」
「そうだわジェフリー。老体で病弱のあなたが戦ったら、ものの数秒で死んでいたわ。こういうのは適材適所よ」
シェナに核心をつかれ国王陛下は納得したかのようにフッと笑った。
しかし──目の前にいきなり人らしき存在が現れる。
アウナスだった。
シェナは身を構える。
「よぉウィル。ルシフェルが居なくなったけど死ななくてよかったな」
飄々とした物言いに少し苛立ちを覚える。
だがここは怒りをぐっと堪え、アウナスの前に立った。
よく見たら金髪で紅色の瞳、鍛えすぎない細マッチョ。
この悪魔が人間だったら、女の子たちは放っておかない容姿だ。
「ウィル様、こいつは悪魔です。こいつのせいでゲイリーは死にました」
「ゲイリーが? どうして」
アウナスはハーっと深いため息をついた。
ゲイリーが死んだ事の顛末を説明するが、にわかにも信じ難い。
まさか──ゲイリーはそんな十字架を背負っていたなんて。
よくもここまで耐えながら生きてきたものだ。
ネルソンを殺したかった気持ちを長年抱えながら生きていたというのは、相当辛いものだったのだろう。
かく言う僕も一度殺意に心を呑まれてしまった。
そんな僕がゲイリーを責める資格は無い。
「てかよ、お前の大結界に爆弾しかけたんだけど、あれ解除しなきゃな」
爆弾──?
そういえば、クラウリーが爆発がなんとかって言ってたけど……。
いや──まずい、まずすぎる。
大結界が爆発したら王都どころかこの国自体滅んでしまう!
「お前ッ!! なんてことしてくれたんだッ!! 今すぐ解除してこいッ!! そして二度とここに現れるなッ!!」
「そんな悲しいこと言うなよ。爆弾は解除してやるから、たまには俺と遊んでくれ」
「嫌だッ!!」
僕が悪魔と遊ぶ?
コイツ、どういう神経しているんだ。
僕が悪魔を憎い程嫌っているのを分かっているクセに。
なんかムカついて来た。
うん、コイツを消そう。
爆弾は自力で解除する。
「まあ冗談はさておき、大結界のところまでお前と国王は来てもらう。悪いがシェナはお留守番だ」
「貴様の言うことなど利けるか。シェナも着いていく」
「えぇ〜まじでぇ〜、怒られるの俺なんだけどぉ〜」
明らさまに嫌な顔するなよ。
シェナは大事な仲間なんだ、除け者にはしない。
「シェナも連れていく。それでいいな」
アウナスはまた深いため息をついた。
諦めたのか「はいはい」と言って軽くあしらわれた。
次の瞬間、既に──大結界装置がある地下に飛んでいた。
大結界装置には大きな光の塊が張り付いていた。
これが爆弾なのか?
「────ウィル?」
「ウィルだわッ!!」
大結界装置の後ろから、何故かノエルとアリスが出てきたのだ。
それにしてもどうして──
「アウナス、説明しろ」
「あぁ、ワシの家族をここに集めて何を企んでおる」
「まあまあ落ち着けよ、トゥルメリア王家の皆さん。大結界に張り付いた爆弾を解除する代わりに、会ってもらう御方が居る」
僕的には早く爆弾を解除してほしいんだけど、急かすと面倒くさそうな悪魔な感じがするから、ここは一応素直に言うことを聞いておくしかない。
でも──警戒は怠らないように、細心の注意を払っておこう。
万が一なことが起きたら、僕が全員を守らなきゃいけない。
「爆弾のことは気にすんな。俺がしっかり解除しておく」
「絶対だからなッ!!」
「そう構えんなってウィル。約束は守るよ。それに──お前には馴染みのある御方だ。んじゃ、1箇所に集まったな。それでは──いってらっしゃい」
いきなり目の前が真っ白になっていく。
何か──温かいものに優しく包まれているそんな気持ちだった。
先程までの疲れや傷が一気に癒されていく感覚だ。
そして──ゆっくり目を開けると、みんなも同じ場所に飛ばされていた。
だが──シェナだけはこの場に居ない。
ノエルが不安そうに僕に寄り添った。
「ウィル……ここはどこ?」
「わからない。でも──1度だけ来たことがある」
そう、僕はここに来たことがある。
真っ白で何も無い空間。
進もうにも同じ光景だけしか見えない。
やっぱり──
そこには一度会ったことのある存在が居た。
──神だった。
だからシェナは飛ばされなかったのか。
神が隠れているこの場所に、魔族の血が入ってるシェナは連れていけない。
「久々だなウィル。って言ってもそんな月日経ってないか」
「ウィル、この人は……?」
僕の左横に立っていたアリスが質問するが、それを答える間もなく、ノエルの右横に立っていた国王陛下が跪き頭を垂れた。
国王陛下は神だと言うことを知っているみたいだ。
「お久しぶりですメヒア様。継承の儀、以来ですか」
「久しぶりジェフリー。君もすっかりおじいちゃんになったね。あの時は初老に片足を突っ込む前だっけ?」
「手厳しいお言葉でございます」
知っているどころか、会ったことがあるなんて驚きだ。
ノエルとアリスも続き跪く。
「久しぶりノエル。こうして対面するのは初めてだね」
「はい、メヒア様。メヒア様のご尊顔を拝せたこと、感嬉の極みでございます」
ハーフエルフであるノエルは本来ならば神聖魔法は扱えない。
でも──毎日神に祈ったお陰で神聖魔法の祝福を受けて扱えるようになったんだよね。
その時に声を聞いてるのか。
「ノエルはいちいち大袈裟だよね。それと──アリスは初めましてだね」
「トゥルメリア王国第一王女、アリス・トゥルメリアで御座います。先程の無礼な態度大変申し訳ございません」
「いーのいーの、ウィルなんて敬語すら使わないから」
ノエルたちが鬼の形相で睨んでくる。
そんなに睨まなくてもいいじゃない。
だって──胡散臭かったんだもん。
自分を神って自称するんだよ?
前世だったら痛い人確定だよ。
「ワシの愚息が申し訳ありません。今すぐ性根を叩き直して跪かせます」
国王陛下ってずっと呼んでるけど、僕の実の父親なんだよね。
今だけはお父様と呼ばせて貰います……。
「お父様、申し訳ございません。神だとはにわかにも信じがたくて崩した言葉を使ってしまいました」
「だがここに在らせられるのは偉大なる神、メヒア様だ。ウィル、お前も跪け」
「でも──」
「いいのいいの。今更ウィルに敬意を払われてもこっちがムズムズするし、このままでいいよ」
ニヤニヤしながら言うなよ。
お前本当に神なのか?
やっぱりいけ好かない。
「ま、無駄話もなんだし、本題に入りますか」
ふざけた表情から一変、真面目な面持ちになった神は、ゆっくりと語り出した──
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