王都奪還作戦⑧
「君は一体誰なんだッ、どうして僕の格好をしているッ」
「………………………………」
返事は返ってこない。
だがもう一人の僕は、ただ黙々と斬撃を繰り出してくる。
僕はそれをいなすのが精一杯だった。
度重なる神聖魔法の行使と精神的摩耗で身も心も限界だった。
それなのにこのタイミングでもう一人の僕だって?
クラウリーを倒すどころか、こんな奴が出てきたらモーガンを助けることは出来ない。
「オールバインドッ!!」
しかし──もう一人の僕はオールバインドを鷲掴みにし引きちぎるように無効化した。
オールバインドが効かないなら──
「オールゲージッ!!」
だがそれも持っていた剣で薙ぎ払うように破壊された。
ダメだ──僕の魔法が効かない……。
神聖魔法だぞ、おそらくもう一人の僕は悪魔だ。
どこかで僕の身体を複製して模写したに違いない。
だが──僕の身体を複製して器として悪魔が憑依したとしても、神聖魔法を打ち破る事なんて容易なはずでは無い。
本当に君は誰なんだ────
「どうです、心地は最悪でしょうが悪くは無いでしょう」
「僕の身体を複製して悪魔を憑依させるなんて、趣味が悪いにも程があるよ」
「はい? お前には聞いてないウィル・トゥルメリア。わたしはお前と対峙している方に聞いているんだ」
もう一人の僕に聞いたのか。
手を握ったり開いたりして感触を確かめているが、無表情すぎて何を考えているか分からない。
どちらにせよ──もう一人の僕を倒さないとクラウリーの元には辿り着けない。
僕は再び刀を構え間合いを詰めた。
「ク……ラウリー……」
「なんですかモーガン、まだ死んでなかったのか」
「お前は……我を騙したのか……」
「何度も言っているでしょう、あなたを利用していただけ。あなたもベリアルもダンタリオンも、ウィル・トゥルメリアを捕まえる為の駒にしか過ぎない」
モーガンは最後の力を振り絞って手を差し伸べクラウリーの裾を掴むが、羽虫を叩くかのようにあしらわれた。
「我は……王になるべき、存在だった……。だから、邪魔だったウィルをお前に献上し、ジェフリーに代わって王に、なるはずだった……」
「それも今は夢物語として散るのだ。儚い、なんと哀れな」
「我の最後の足掻きだ……」
「────足掻き……?」
モーガンは不敵な笑みを浮かべた。
その不敵な笑みは、何かを覚悟したようなそんな笑みにも見える。
「アウナス、居るか──」
「はいよ、ここに」
モーガンの横にアウナスが現れる。
アウナスを見た瞬間、クラウリーの顔は鬼の形相へと変化した。
「貴様──何故ここに居るッ!! ここは貴様らのテリトリーでは無いはずだッ!!」
「固いこと言うなよクラウリー。お前、モーガンのこと甘く見すぎだ」
「貴様……何をしたッ!!」
僕はもう一人の僕が間合いを取った時に、チラッとモーガンたちの方を一瞥する。
なんかもう一体悪魔が増えてるけど、言い争いをしている。
でも近寄れない。
それだけもう一人の僕の攻撃は凄まじかった。
「なぁクラウリー、ガルシア王国のこと覚えてるか」
「あぁ、貴様が余計なことをしたせいで滅亡した国だ」
「余計とはひでぇな。──まあいいや。とりあえず、モーガンに何かあったら、ガルシアみたいになることは伝えておくよ」
「お前──まさかッ」
余裕の無くなったクラウリーは明らかに動揺していた。
彼の頭の中で色々思案されているだろうが、それを見透かしたかのようにモーガンは嗤う。
「我が王になれなかった時を想定して、アウナスとも契約した。お前ら悪魔は一枚岩じゃないのが仇となったな」
「モーガンッ!!」
「我は直に死ぬ。だが──簡単に死ぬ訳にはいかない。お前らが欲しているウィル、そしてお前ら共々消し炭にしてやるッ」
「フッ──そのような妄言でわたしを騙すことは無理だぞ」
「嘘じゃねえ。俺がここに居るってことはそういうことだろ。昔っから堅物なのは仕方ねえが、少しはその性格どうにかしたほうがいいぜ」
「御方様──ッ!!」
もう一人の僕と見合っていると、クラウリーは叫び出した。
御方様って、もしかして──
「ここは危険です。御方様が居るのにも関わらず、コイツはここを爆発しようとしていますッ」
爆発────?
どういうことだ。
アウナスって悪魔が王宮を爆発させるってことなのか?
そうすれば、僕たちはおろか──王宮の中に残っているシェナやアリスたちが危ない。
まだ国王陛下と父さんだって──
「どういうことだアウナスッ!!」
「おっと、初対面で怒鳴りつけるなんてどういう教育されてんのかねぇ」
「茶化すなッ!! 言えッ!!」
「俺はあるべき姿に────」
アウナスの答えを聞く前にもう一人の僕が斬撃を繰り出してくる。
本当に邪魔だ。
僕も負けじと応戦するが、攻撃は届かない。
彼の蹴りが腹部に直撃すると、僕は後ろに吹っ飛ばされた。
なんていう威力なんだ──
立ち上がろうにも蓄積されたダメージで簡単には立ち上がれない。
ふと横をみると、そこには──シェナと国王陛下が居た。
どうしてここに────
「ウィル様が二人──ッ?」
シェナが近づいてくる。
シェナは御方様と呼ばれるもう一人の僕がどれだけ危険なのか知らない。
「ダメだシェナッ!! 陛下を連れて逃げろッ!!」
もう一人の僕はシェナに気づくと、直ぐさまラピッドファイヤを撃ってきた。
弾速が速すぎる。
回避も防御も間に合わない。
「シェナぁぁぁぁぁあ!!!!!」
「オールバリア──」
手遅れになると思ったその刹那──
ラピッドファイヤを防いだのは国王陛下だった。
危なかった……。
国王陛下が居なければシェナは死んでいた。
「シェナ危なかったのう。でも大丈夫じゃ。あれくらいの攻撃程度、ワシの魔法は貫かれん」
「ありがとうジェフリー。助かったわ」
僕は安堵すると再び立ち上がった。
「二人とも、ここは危険です。今すぐ王宮から退避してください」
「何を言ってる。ワシはモーガンを説得……」
国王陛下はモーガンに目を向ける。
だがモーガンの姿は、今にも死にそうな姿だった。
しかも──クラウリーとアウナスがそばにいて、目の前にはもう一人の僕が居る。
とても助けられる場面ではなかった。
「来たのか……我が兄よ……王座は我が頂く」
「そのような状況で、まだ王座にしがみつこうとするのかモーガン」
「この国は……長らく平和ボケしていた。悪魔という、脅威がありながら、仮初の平穏の為、兄は目を背けていた……その罪は重い……」
「だからお前が王になるべきだと、そう主張したいのだな?」
「そうだ……我が王になれば……他国からも、悪魔からも守れる、強い国に変えられる……。兄はこの国を弱くした……我が王だッ!!」
もう長くは無いのに、これほどまでに王位に執着するモーガン。
彼はこの国が現国王によって弱体化し、滅亡の危機に瀕していると言いたい様だった。
だから自分が王になり、この国を立て直す。
今よりももっと強い国にし、他国からも悪魔からも侵攻を受けない国にしたかったのだ。
彼なりの正義はそこにあるけど、でも──その国を滅亡寸前まで追いやっているのは、モーガン自身だったのだ。
それを彼はまだ気づいていない。
「我は……我は……」
「モーガン、もうよい喋るな。ワシの後の王は既に決まっておる。少なくとも次代はお前では無い」
「我が……王に……」
「諦めろ。お前は直に死ぬ。ただ──ワシはお前に謝りたい。放逐などせずお前をあの時殺すべきじゃった。そうすればお前は王位のことに執着せず、安らかに眠る事ができたのだからな。すまなかった」
国王陛下は深々と頭を下げた。
だが、モーガンから返事は返ってこない。
彼は死んだのだ。
あれだけ憎んで、殺してやりたいと思っていた相手なのに、死んでしまうと、やはり──心が痛む。
死んでしまっては償うことだってできないのに。
「あれ? 死んじゃった。まあさすがにあの深手なら仕方ねえよな」
「人の命とは刹那の中で生きている。コイツ一人死んだところで何一つ影響は無い」
「…………あっそ」
アウナスは不服そうな顔でどこかに行ってしまった。
モーガンが死んだことによって、この時点でクーデターは未遂で終わった。
どっちの悪魔かは分からないが彼が悪魔と契約して行使した闇魔法、死の薔薇も解除されただろう。
これ以上戦ってもいたずらに消耗するだけだから、なるべく戦闘は回避したいが、そうも言ってられない。
まだここには、強力な悪魔が揃っていた。
「さて──そろそろ決着しないといけないね、もう一人の僕」
「…………………………」
僕の言葉に耳を傾けようとはしない。
だが彼は、自分の手を見つめていた。
「御方様ッ!! 時間がありません。お戻りになりましょう」
「……クラウリー」
ようやく喋った。
声まで僕なんて、外見だけを俯瞰して見てるみたいでなんだか変な気分だ。
「如何なさいましたか?」
「やはり──本物でなければ器の維持は難しい。仮初の器は直に朽ちる」
もう一人の僕の身体は粒子が散るように崩壊が始まっていた。
もしかして──僕の身体を乗っ取ろうとしているのか?
複製された僕の身体を器と呼んでいるし、間違いなく──彼は悪魔たちが言う、【偉大なる御方】……。
「ウィル・トゥルメリア──お前の力はどこか見覚えがある。懐かしいような腹立たしいような」
「御方様、そろそろお時間が……」
「わかっておる」
もう一人の僕……もとい、偉大なる御方は踵を返しクラウリーの元に向かっている。
「おい、まだ決着が──」
「決着など付けなくても分かる。今日は腕試しのつもりで来た。何せ──目覚めたのは千年振りだからな」
やはり──偉大なる御方だった。
だとしたらあの強さは納得できる。
尽く僕の神聖魔法を無効化し、攻撃の隙すら与えなかった。
これが目覚めたばかりの悪魔の王の力なのか?
「丁度良い。暫くの間器はこれにしよう」
彼はそういうと、僕の複製体を捨ててモーガンの身体に乗り移ったではないか。
偉大なる御方が乗り移るとモーガンの瞼を開け、助走動作無しにスっと立ち上がる。
「複製体よりかはこちらの方が頑丈で良い」
「お気に召したようで何より……」
「ウィル・トゥルメリア──」
偉大なる御方は僕の方に一瞥を向ける。
口数はそんなに多くないけど、彼から放たれるオーラや魔力が強すぎて、正直苦しい……。
凄まじい圧に息が出来ない。
恐怖心も襲ってくるし逃げたい。
でも──ここで逃げたら僕はずっと逃げ続ける。
だから僕は立ち向かった。
「ほぅ、良い目だ。私の圧で倒れないとは中々やるようだな。──まあいい。また近々会うことになるだろう。その時は貴様の身体を頂く。くれぐれも──器を壊すなよ?」
「その時僕は、お前を消滅させるッ!!」
「できるものならな。それと──」
偉大なる御方は移動したと認識出来ないくらい、僕の元に近づいてきた。
そして耳元で囁く。
「私の名は、【ルシフェル】だ──」
そう言うと、僕の前から忽然と姿を消した──
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