王都奪還作戦⑦
「オールブースト──」
一瞬にしてモーガンとの差を詰めた。
二撃三撃とモーガンに斬撃を与えていく。
モーガンは僕の斬撃を受け止めるのがやっとだった。
重い斬撃で、モーガンの剣は刃こぼれしていく。
でも──僕にはそんなの関係ない。
次々に斬撃をお見舞いした。
やがてモーガンは危機を感じたのか、僕から間合いを取る。
「これがお前の本気か。厄介だな──」
「………………ッ」
返答することなど無意味。
相手が落ち着く間もなく間合いを詰めて、更に斬撃を食らわした。
そして──僕の一撃がモーガンの脚を斬りつける。
「────んぐッ!!」
膝を付いたモーガン。
刀を構えるのを止め、拳で思いっきり殴打する。
それを何度も何度も──
モーガンは一瞬の隙を突いたのか、僕の太もも辺りに隠し持っていたナイフで刺そうとするが、掠めただけでなんの足止めにもならなかった。
アドレナリンが体内を爆発的に循環していて、些細な痛みなど感じない。
「……お前が、マーサ・トゥルメリアを殺した……」
「そうだ、我がマーサを死に追いやった」
「お前がッ!! ジェイドを殺したッ!!」
「そうだ、我がジェイドを死に追いやった。だが、我はキッカケを作ったに過ぎない──」
「そんなのどうでもいいッ!! お前が殺したんだッ」
モーガンに渾身の一発を食らわせると、モーガンは床に倒れた。
直ぐさま起き上がろうとするが、僕は刀でそれを制止した。
「オールバインド──」
モーガンは拘束される。
だが──彼は嗤っていた。
何がおかしい。
たくさんの人を欺き、嘲笑い、死に追いやってきた人間が、反省の弁も述べず何を嗤っている。
つくづく神経を逆撫でしてくる男だ。
こんな奴が僕の叔父だなんて、死んでも認めたくない。
「みんな──幸せに生きる権利があった。なのにお前が……お前が全部奪ったッ!! たくさんの人の幸せに生きる権利を奪ったんだッ!! 死をもって償え、モーガン・トゥルメリア……」
「まだ分からないのか? 全てはお前が元凶なのだぞ」
「違うッ、お前が全て悪い」
「冷静になって少しは考えてみろ。お前が産まれてマーサが殺された。お前が生きてるからダンタリオンに利用されたジェイドが殺された。お前が死なないから王宮に居る兵士たちは死の瀬戸際に立たされている。全部お前じゃないか」
「違う──ッ!!」
「お前が居るから、みんな死ぬんだ」
「うわぁぁぁぁぁぁあッ!!!!!!」
僕は大きく刀を振りかぶった。
そして刀をモーガン目掛けて振り抜こうとしたが、首に到達する寸前で手が止まった。
僕の心の中にある良心の呵責が最後の最後で踏みとどまったのだ。
殺したくない──でも殺さないといけない。
でないと、ジェイドやマーサ、死んで行った多くの人たちに申し訳が立たない。
でも、それでも──手は動かなかった。
僕に、人は殺せない────
「最後の最後に怖気付いたか。だからお前は弱いんだ、ウィル──」
そうだ──僕は弱い。
でも、人を殺せないことが弱さではない。
人を殺さないことこそが、僕の信念であり強さである。
確かにモーガンは悪人だ。
死をもって償うのは当然としながらも、僕が彼の生死を断罪するのは違う。
然るべき手順を持って、彼は断罪されるべきだ。
殺してやりたいほどに憎んでるけど、それでも──僕はモーガンを殺さない。
僕は刀をしまい、拘束されたモーガンを立たせた。
「モーガン・トゥルメリア──お前は当国を追放されたのにも関わらず、国王の許可も無しに当国に入国した罪と、クーデターを画策し国内に混乱をもたらした罪で公爵家権限の下、拘束する。政治犯罪者として王宮内の地下牢に投獄されるが、一切の異議申し立ては受け付けない」
「それがお前が選んだ道か。兵士たちを見殺しにするんだな」
「見殺しにはしない。必ず僕が助ける」
「だとよ────ッ! 聞いてたかクラウリー」
いきなり──男が現れた。
白髪で整った白い顎髭。サングラスを掛けていて、スーツをぴっしりと着ていた。
「全て見ていましたよ。しかし──こうもあっさりとやられてしまうなんて、滑稽の極みでしたよ」
「言ってくれる。こいつとの戦闘に我は分が悪い。そう言ったのはお前だろ」
「もう少し消耗させられると思ってたんですがね。目論見が外れたのは少々痛いところです」
クラウリーという悪魔はどこからやってきた?
全て見ていたって言ってる限り、ずっとここに居たのは間違いないが、一体何者なんだ。
くらうりーは人差し指を僕に向けると、スっとスワイプした。
僕は横に吹っ飛ぶ。
辛うじて踏ん張り壁に激突しなかったが、もし激突してしまったら、骨の一、二本は軽く折れていただろう。
しかし──物理的にモーガンとの距離が離れてしまった。
モーガンを拘束していたオールバインド、僕自身に掛けていたオールハイネスとオールブーストが時間切れで解除されてしまった。
「それを踏ん張りますか。やはり──偉大なる御方の器は規格が違いますね。益々あなたに興味を持ちました。伏せ──」
クラウリーは人差し指をヒュンっとしたに下げると、僕の身体が強制的に地面に伏せられる。
今までに見たことない力強さだ。
オールグラビティ並の強制力。
身動きが取れない。
それでも──対抗は出来る。
「オールパージ──」
オールパージで難を逃れると、ゆっくりと立ち上がる。
しかし、さっきより身体が重い。
神聖魔法の行使が身体に来ているのか?
相手は悪魔だ、出し惜しみしている場合じゃない。
じゃないと、僕が殺される。
「ほぅ、隷属の縛りをたかがオールパージで解きましたか。まあいいでしょう。そろそろ時間も惜しいですからね」
クラウリーはモーガンに近寄ると、いきなりモーガンを吹き飛ばした。
モーガンは壁に激突して口から大量の血を吐血する。
「────ぐはッ!! クラウリー……貴様、何をする……」
「何をする……とは? あなたはわたしの仲間か? 答えはノーだ。あなたは王座を奪還する為にわたしたち悪魔を利用した。けれど、わたしたち悪魔は偉大なる御方の器を回収するためにあなたを利用した」
「貴様……だからと言ってこんなこと……」
「口で言わなきゃ分からないか? ウィルにあれだけの講釈を垂れていたあなたが、自分に危険が迫るとチンパンジーみたいに脳みそが退化するんだな」
「意味の分からないことを……」
「要するに、お前はもう用済み、利用価値の無くなった処分待ちのゴミだ」
クラウリーの口調が一気に変わった。
余裕綽々の表情を浮かべていたモーガンにも、焦りの表情が伺える。
でも──このままではモーガンが死んでしまう。
死んで欲しい悪人だけど、悪魔に殺されるのはもっと嫌だ。
僕はクラウリーに間合いを詰め、刀を振り抜く。
しかし──クラウリーは素手で、それも指二本で僕の攻撃を止めてしまった。
「邪魔すんな。お前の相手をしているヒマはない」
僕はそのまま吹き飛ばされてしまう。
クラウリーがモーガンを引き寄せると、そのまま──手刀でモーガンの鳩尾部分を貫いた。
モーガンの口からは更に吐血する。
「モーガンッ!!」
クラウリーは貫いた腕を抜き、不器用に投げつけた。
「ク……ラウ……リー……」
「何か言ったのか? 全然分からないな。いいから早く死んでくれ。計画の邪魔だ」
クラウリーは僕の方へと踵を返すと、不敵な笑みを浮かべた。
僕は刀を強く握り構える。
「何故お前がモーガンを殺す必要がある」
「殺すのに理由など要らないだろう。まぁ強いて言うならもう価値が無いから殺したと言っていいだろう」
「貴様ら悪魔は、人の命をなんだと思っているんだ」
「人間など──所詮ただの家畜に過ぎない」
更に怒りが沸き立った。
モーガンを助ける為には、クラウリーを倒さないと彼は助けられない。
僕が彼を助ける間にも、クラウリーがいる限り邪魔をしてくるだろう。
しかし──クラウリーから戦闘の意思が見られなかった。
もしかして、僕と戦う気がないのか?
「クラウリー、構えろ。お前は僕が倒す」
「そんな焦せるな。大丈夫──お前の相手はわたしでは無い。ちゃんと相応しい相手を用意してあるよ」
相応しい相手?
やけに勿体ぶってくるな。
相手が誰だとしても倒すのが当たり前だが、このまま待っていればモーガンが死んでしまう。
僕は居ても立ってもいられず、クラウリーへの間合いを詰めた。
「だから──躾がなってないイヌは嫌いなんだよ」
クラウリーは避ける素振りを見せない。
すると──横から猛スピードで突進してくる何かが迫ってくる。
クラウリーの間合いを詰めるのを止め、それと相対すると、いきなり斬撃が飛んでくる。
その斬撃を受け止めると、相手が判明した。
「どうです? 待った甲斐があっただろう?」
「なんで──どうして──」
目を疑った。
でも──確かにここに居る。
そしてそれは、僕を攻撃してきた。
「どうして──僕がここに……」
僕と全くの瓜二つの顔がそこにはあった。
「君は一体、誰なんだ──」
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