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神に選ばれた転生貴族は、世界を救うことにしました 〜退屈だった人生から始まる英雄譚〜  作者: リオン
第三部 トゥルメリアの後継者編

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王都奪還作戦⑥

 シェナたちと別れた僕は、ゲイリーが居るとするであろう謁見の間に向かった。

 オールインビジブルを発動している為、兵士たちに僕の姿を認知させることはないのだが、もし見つかったらという独特な緊張感と不安が心をくすぐる。


「さすがに──謁見の間に近づくと兵士の数が多いな」


 それは即ち、モーガンは謁見の間に居るというサインにもなる。

 だが不自然だ。

 王宮を占拠しているのはモーガン派であることは間違いない。

 しかし──謁見の間に向かっている道中、粛清されたであろう王権派の貴族や兵士たちの亡骸は見当たらない。

 むしろ、王宮は隅々まで手を加えたかのように綺麗だ。

 何がどうなっている。

 周りに居る兵士の表情はヘルムで見えないが、これだけいるのに誰一人声を発していなかった。


 やがて──謁見の間に辿り着くと、目の前の大きな扉は開いたままだった。

 まるで僕が来ることを最初から分かっていて中に入るよう誘っているかのように。

 僕は、謁見の間に足を踏み入れた。


「ようやく来たか、我が甥よ」


 謁見の間の玉座には、モーガンが座っていた。

 まるで昔からこの玉座が自分のものであると主張しているかのように。

 彼の表情は余裕にでさえ感じた。

 しかし──僕はオールインビジブルを解除していない。

 それでもモーガンは僕の存在をしっかりと認知していた。

 何かのユニークスキルでも持っているのか?

 オールインビジブルを解除して、モーガンの前に姿を現す。


「よく分かりましたね叔父上。いや──簒奪者、モーガン・トゥルメリア」


「簒奪者……面白いことを言うな。だがウィル、これは簒奪ではない。正当な後継なのだよ」


「正当である後継ならば──何故、王宮を占拠しアリス王女殿下を幽閉したのですか。挙句の果てに市街地では暴動が起き、市街地に逃げ込んだ王権派の粛清までしてるではないですか。これが何処に正当性があるのです」


 まるで何も分かってないなと言わんばかりに、モーガンは嘆息した。


「筋書きなど我がトゥルメリアの王になればいくらでも書き換えられる」


「へぇ、それはどういった?」


「貴様に明かすのは無意味だと思うが教えてやろう。自らの権力欲しさにアリス・トゥルメリアは無差別粛清を敢行。ウィル・グレイシーを使い王都市街地を混乱の渦に巻き込み、ジェフリー・トゥルメリアを殺害。その場で王宮憲兵団によって殺害された。そしてアリスのクーデターを阻止したのがこの我ということだ」


 正直──反吐が出るほどの強引で感情の無い筋書きだ。

 今自分自身がやっているクーデターを僕とアリスに罪を擦り付け、モーガン自身がこのクーデターを鎮圧した英雄になり国王の座につこうという魂胆だ。

 しかし──アリスは国民の間では絶大な支持を受けている。

 そんなアリスがクーデターを起こしたと世間に広まり処刑でもされれば、正当性を主張したモーガンに一気に支持が集まる。

 それを折り込み済みでモーガンはこのクーデターを画策し実行したのだ。


「そして──この作戦は絶対に失敗しない理由がひとつある」


「────理由?」


「それは────ウィル、お前は絶対に人を殺さない」


 そうか──そういうことか。

 モーガンが言いたいのは、このクーデターを止めるには絶対にモーガンを討ち果たさないと阻止できないのだ。

 いや、そんなことはない。

 モーガンさえ無力化し拘束してしまえば、このクーデターは失敗に終わる。

 アリスの救助はシェナに任せているし、市街地の暴動鎮圧はノーマンたちに任せている。

 みんな強いし簡単にやられることは無いから、万が一も無い。

 けど──モーガンの言う、僕が絶対に人を殺さないのは合っている。

 どんなことがあっても同じ人間として、人が人の命を奪っていい理由なんてどこにも存在しない。

 モーガンも僕を陥れようとする悪い人だけど、だからといって命を奪ってはならないのだ。

 だから僕は人を殺さない。

 なのに────


「我を拘束して無力化しようとしても無駄だ。この王宮は既に我が手中にある。我を殺さない限り、王宮の憲兵は我の言いなりだ」


「王宮に粛清の痕がないのはもしかして──」


「あぁ、我のユニークスキルだ」


 そういうことか──

 モーガンのユニークスキルは、精神干渉。

 マインドコントロールだ。

 だから王宮内の兵士は誰一人声を発さず立っていたのか。


「だが──何故かお前には効かないみたいだ。いや、ジェフリーもアリスにも効かなかったな。血の繋がりがある者には効かないらしい。まぁ、最も──これから死んでしまうお前に説明しても無駄か。オールハイネス──」


 するといきなり──モーガンは間合いを詰めてきた。

 しかも無詠唱でオールハイネスを発動し僕を斬りつけようとしてくる。

 咄嗟に刀を取り出して防いだ。

 モーガンを弾くと間合いを取った。


「いきなり攻撃してくるなんて卑怯ですね」


「卑怯か。でないとお前には勝てないからね」


「オールハイネス──」


 僕もオールハイネスを発動する。

 その間にモーガンは間合いを詰め、斬撃を交わして来たが、それも受け止め足でモーガンの腹部を蹴り、強制的に間合いを取った。

 僕は反撃に転じる。


「お前に我は殺せない──」


「なら──斬らなければ良いッ!!」


 僕は咄嗟に刀をインベントリにしまい、モーガンの顎を拳で殴打した。

 ユニークスキルは術者本人が死んだ場合と気絶した場合、解除される。

 だからモーガンを殺さずとも気絶させ無力化できたらユニークスキルは解除されるので、殺す必要はない。


「叔父上を殺さずとも、気絶すればユニークスキルは解除される。あなたが言ってるのはただのひとつの選択肢に過ぎない」


「────早とちりするなウィル。誰もユニークスキルだけとは言ってないだろう」


「どういうことだ────」


「この世界には人間が唯一扱えない属性魔法がある。闇魔法だよ。死の薔薇(デッド・ローズ)さ」


 死の薔薇(デッド・ローズ)────

 闇魔法の中でも厄介な魔法のひとつ。

 術者本人が生きている限り、対象者は生命力を永遠に吸われ死んでいく魔法だ。

 解除する為には術者本人を殺す必要がある。

 だからモーガンは僕に他に選択肢は無いと言いたかったのか。

 だとすると、どうモーガンを止めればいい。


「これで我を殺すしか無くなったな。どうする? 我を殺して兵士たちを助けるか? それとも、我を生かし兵士たちを見殺しにするか?」


「────くッ!!」


 僕には選べない。

 どちらにせよ誰かが死ぬことになる。

 モーガンを殺したくないし、大勢の兵士たちも見殺しにしたくない。

 大勢の為にモーガンを殺すか?

 モーガンを生け捕りにする為に、大勢を見殺しにするか?

 ダメだ────誰かを殺すだなんて考えちゃいけない。

 でもどうしたらいい。


「我も無駄に生命が散っていくのは見るに耐え難い。そこでだ、我から提案がある」


「提案──?」


「お前を偉大なる御方に献上する。もちろん──お前が犠牲になる上での救済だ。誰も殺したくないのであればお前が犠牲になれ、ウィル」


 今────偉大なる御方ってワードが出てきたよな?

 モーガンは悪魔と繋がっていたのか?

 繋がっていたとしても不思議ではない。

 15年前、僕が生まれた時にベリアルは入念に計画を練って僕を奪おうとした。

 その時のモーガン派の主犯格はザガルトス・スミス。

 半年前のエルフ王国の一件で、ダンタリオンはジェイド・マーセナスに憑依して混乱に陥れた。

 マーセナス家は表向き、モーガン派の立ち位置を取っている。

 そして今、モーガンは闇魔法で兵士たちの生命を人質にしている。

 闇魔法は人間に扱えない魔法で、下手したら術者本人が魔獣化してしまう危険な魔法だ。

 しかも──死の薔薇(デッド・ローズ)は闇魔法の中でも協力な部類に入る凶悪な魔法だし、モーガンが簡単に扱えるものでも無い。

 だとすれば──結論、モーガンは悪魔と協力関係にあるが妥当だった。


「あなたは悪魔と繋がって居たのか」


「今更な話しだ。我の宿願の為ならば悪魔とも手を組むのは悪い話じゃない」


「悪魔のせいで色んな人たちが亡くなったんだぞッ!! なのに悪魔と手を組むなんて正気の沙汰とは思えないッ!!」


「それで──? 何が言いたい。我は我のために悪魔を利用しているだけだ。悪魔もお前を欲しているから我に協力している。利害が一致しているのだよ」


 だとしても──悪魔と手を組むのは到底理解できない。

 僕のお母さんやジェイド。エルフ王国の民たち。

 数え切れない人たちが悪魔によって殺されてきた。

 僕はそれをこの目で見てきているし、何度も絶望した。

 それなのに、自分のエゴを優先して何とも思わないモーガンを、僕は人として認めない。

 こいつは人の姿をした悪魔だ。

 そんな奴が国のトップになって言いワケがない。


「そうそう、お前が助けられなかったと後悔しているジェイドだがな、ダンタリオンと引き合わせたのは我だ」


「貴様────ッ!!」


 僕はもう考える前にモーガンに斬りかかっていた。

 何度も斬撃を見舞うが、軽くいなされる。


「君が助けられなかった人間だもんなぁ。後悔し懺悔したい人を苦しめた張本人がここに居るんだ。その怒りは間違ってない。むしろ正しい」


「黙れ──お前の道楽でジェイドは死んだ」


「違う。お前が助けられなかったからだ。お前は弱い」


 ──ウィル・トゥルメリア、お前は弱い。

 自然とダンタリオンの言葉がリフレインしてきた。

 やめろ──聞きたくない。

 僕の心から記憶から出ていけ。


 ──お前は弱い。

 僕は確かに弱い。

 でも──でも──


「ウィル──お前は弱い」


 僕の頭の中で何かが切れる音がした。

 その時の僕は冷静さを失い。

 闘争本能に身を任せた。

 そう────誰かを助ける心よりも、誰かを殺す心が支配した瞬間だった。


「モーガン・トゥルメリア……お前を殺す。死をもって償え……」


「ようやくやる気になったか。良いだろう。本当の殺し合いをしよう」


 怒りに満ち溢れた感情とは裏腹に、僕の頬からは一筋の涙が頬を伝った────

最後までお読み頂きありがとうございます。


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