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神に選ばれた転生貴族は、世界を救うことにしました 〜退屈だった人生から始まる英雄譚〜  作者: リオン
第三部 トゥルメリアの後継者編

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王都奪還作戦⑤ (シェナSide)

 アウナス──

 聞いたことのない悪魔だった。

 シェナも長らく生きてはいるけど、少なくとも歴史の表舞台にアウナスという悪魔が出てきた覚えはない。


「そう構えるなよ。殺すってのは冗談だ。ここをすんなり通してくれれば、何にもしねえからよ」


「悪魔の言葉はそう簡単には信じられないわ。何が目的でここに居る」


 今はモーガン・トゥルメリアがクーデターを起こし、アリス王女殿下を地下牢に幽閉した。

 スレブの父、ネルソン・レニツァが死んだ途端、アウナスという悪魔が現れた。

 これはどうも偶然──って言葉で片付けるのには無理があるわ。


「偶然入り込んだ先が地下牢で、ここでは魔力を遮断する結界が敷いてある。もちろん──俺もこの結界のせいで魔法は使えねえ」


「なら好都合ね。魔法が使えない悪魔はそこらへんのスライム同然よ」


「おいおい、そんな相手を下に見るのはオススメしないぜ。ほら────」


 すると──いきなり、アウナスが目の前に現れた。

 魔力を遮断する結界が張られていて、魔法は使えない。

 しかし、アウナスはシェナの前に瞬間移動した。

 背筋が凍る。

 まずい──このままでは殺される。


「殺そうとしてたらすでに殺してるさ。でも安心しな、お前らを殺すことはしねえから。クライアントの契約にそのことは載ってねえ」


 シェナはアリス王女を抱えたまま間合いを取った。

 スレブも離れるように間合いを取る。

 奴が脅威だということは直感で分かる。

 自分の直感を信じるなら、この悪魔は魔法が無くても強い。

 それも──ウィル様と互角を張れるレベルで。


「ゲイリー離れて。奴は危険」


「危険──? 何を言ってる。ネルソンが錯乱して自分が悪魔だと思い込んでるだけだろ。ネルソンは生きていた。親子共々殺してや────」


 ゲイリーの首から上はスパッと切り離された。

 ただの肉塊と成れ果てた胴体からは血飛沫が飛び散る。

 その刹那の時、なにも見えなかった。

 防ぐことさえも出来なかった。


「マーセナス卿ッ!!」


「────いやッ!!」


 シェナはアリス王女に見せないよう首元に顔を埋めさせた。

 アリス王女は昔、母であるマーサを目の前で殺された。

 それがトラウマとなり人の死に対して敏感となってしまった。

 それがトリガーとなってしまったのか、彼女は酷く震え、息も荒い。


「なにも殺さなくたっていいじゃないッ!! やはり悪魔の言葉なんて信じられないわ」


「本当に殺すつもりはなかったんだ。だけど──俺に殺意を向けたからには死んでもらわないと。ねぇ?」


 アウナスはニヤリとしながらこちらを見てくる。

 また背筋が凍る。

 だめだ──反抗すれば次はシェナが殺される。


「良い決断だ。反抗したって無意味。君は賢い選択をした」


 こんな奴と対峙して、戦う意志などとうに消え失せた。

 今戦っても魔法が使えない今じゃ、ゲイリーみたいに瞬殺されるのがオチだ。

 おそらく──シェナの絶壁でも防げない。


「んで、そこの猫人族。……あれ? なんか見覚えあると思ったらアイツのガキじゃねえか」


 アイツ──?

 一体誰のことをさしてる?

 母親はとうの昔に亡くなった。

 父親は魔族ってだけで誰かも分からない。

 もしかして──コイツはシェナの父親を知ってる?


「そりゃあ、アスモデウスも欲しがるわな。失敗作なのに生きてるのはお前だけだからな」


 失敗作──

 アスモデウスと初めて会った時も同じことを言っていた。

 なら、アスモデウスもシェナの父親を知っている。

 じゃあ、シェナの父親は一体……。


「お前も大変だな。あんな変態に目を付けられて。でも、そうと分かればお前を殺すわけにはいかなくなったな。じゃ、俺は行くぞ」


 アウナスはそのままシェナの横を通り過ぎた。

 奴の威圧が身体に押し寄せて息ができなくなる。

 でも──知りたい。

 シェナのお父さんは誰なの──


「アウナス──ッ」


 アウナスの足は止まり、踵を返した。


「なんだよ。すんなり行かせてくれよ」


「シェナ……シェナのお父さんは誰──」


 沈黙が流れる。

 だがアウナスは口を開こうとしない。

 やがてニッコリと笑った刹那、真顔になり言い放つ。


「そういうのは自分で探し求めるんだよ。どうせ俺は悪魔だ。お前らは悪魔の言うことを真に受けねえだろ。知りたきゃ自分で見つけろ」


 アウナスはそう言うとそのまま出口に向かって行った。

 アウナスの威圧感が遠のいて、緊張の糸が切れた。

 なんという強者の風格。

 魔法があったとしてもシェナには勝てない。

 でも──あんなすごい悪魔、どうやって勝つのよ。

 アウナスの目的も意図も、クライアントという言葉も何もかも意味不明だった。


 落ち着きを取り戻すと、シェナたちは地下牢から脱出た。

 地下牢から出ると惨たらしい光景だった。

 無数のモーガン派の兵士が廊下に横たわっていた。

 しかも──全員首から上が切断されている。

 そしてその真ん中には、ネルソンの亡骸があった。

 地下牢から出たら戦闘になると思ってたけど、どうやらあの悪魔に敵意を向けた兵士たちは全員殺されてしまったようね。

 だが、アリス王女の目には毒だ。


「アリス様、見てはなりません」


 シェナは咄嗟にアリス王女に目隠しをする。

 だがアリス王女はそれを制した。


「もう大丈夫。シェナありがとう」


「シェナ将軍、これからどうするおつもりですか」


「とりあえずダグラスの元までテレポートするわ。王宮内なら使えるはずよ」


 それは危険な賭けではあったが、幸い──ダグラスたちは王室に立て篭っているだけで戦闘になっては居ない。

 シェナは二人とともにダグラスの下へテレポートした。


「シェナッ!? アリス王女殿下にそれにスレブまでッ」


「お父様──ッ!!」


 アリスはジェフリーを視認すると一目散に駆け寄り抱きしめる。

 ジェフリーもアリスの身を案じていたのか、安堵の嘆息を漏らし頬に涙が伝う。


「よかった……よかった……心配しておったぞアリス」


「私もお父様がご無事で何よりです……。ネルソンに襲われそうになった時、スレブが助けてくれたのです」


「それは真か?」


 アリスは泣きながら頷いた。

 ジェフリーはスレブを一瞥する。

 血塗られた手を見て全てを悟った。


「陛下……私の愚父ぐふがアリス王女殿下に狼藉を働こうとしました。愚父に代わり私が責任を取ります」


 スレブはナイフを取りだし、切っ先を喉元に近づけた。

 だが、ダグラスはそれを制止させる。

 ナイフをスレブから取り上げた。


「おい、お前は何も悪いことをしてねえだろ。むしろ国家に仇なした父親に誅を降したんだ。誰でも出来るわけじゃねえ」


「でも──それでも……」


「もうよいスレブ。娘を助けてくれてありがとう。お主にならアリスを任せ────」


「────お父様、それは嫌ですッ!! 私の相手は私で見つけますッ」


「しかし──こういう場合って助けに来てくれた殿方が白馬の王子様的な──」


「──なんでもかんでも女の子がそういうのでコロッと恋に落ちると思ったら大間違いですよッ。まったく、これだから男ってのは乙女心が分からないのよ」


 正直言ってシェナもそんな回りくどいこと分からないけどね。

 より強い男を求めるのは自然のことだと思ってたけど、アリス王女もその傾向にあるのかしら。

 でもアリス王女は人間だし、人間は考えながら生涯の伴侶を見つけるらしい。

 猫人族のシェナには難しいわ。


「ところでシェナ。ゲイリーはどうした」


「あんまり口にしたくないけど、ゲイリーなら死んだわ」


「────はッ!? どうして」


「地下牢に悪魔が居たのよ。死んだネルソンの身体に憑依してたんだけど、それでバッタリ遭ってそのまま……」


 彼がネルソンに強い恨みを持っていたことは隠した方がいいわね。

 これ以上話をややこしくするわけにはいかないし、説明も面倒くさい。

 それに──あの場にネルソンを向かわせてしまった事をダグラスは自責するに決まってる。

 モーガンのクーデターが終息してない以上、変なことで気を揉んでしまうのは良くない。


「その悪魔──なんて言うんだ」


「自分のこと、アウナスって言ってたわ」


「アウナス? 聞いた事ねえな」


 やはり──ダグラスでも聞いたことない悪魔。

 もし情報を持っていたら何かしらの糸口にはなったと思うけど、無駄足だったわね。


「ダグラス、ジェフリー。シェナはウィル様の下に向かうわ。あなたたちはここで守りを固めてて」


「ワシも行かせてもらうぞ。なんせ弟と決着をつけねばならんからな」


「おい、ジェフ。まだ病み上がりの身体なんだ。ここはシェナに任せよう。あんたが行ったところでアイツは耳を貸さないし、何より危険だ。真っ先に殺される」


「それでもワシは行く。これはワシとモーガンの問題だ」


 ジェフリーは立ち上がった。

 それを諌めるものはもう誰も居なかった。

 ジェフリーの決意は固い。


「作戦変更するわ。立て篭りから三人は王宮から脱出して外にいる仲間と合流して」


「わかった。シェナ、くれぐれも無茶はするなよ」


「分かってる」


「お父様──」


「すまんなアリス。お前には苦労ばかりかけてしまって」


 アリス王女は優しくジェフリーを抱きしめる。

 ジェフリーのほうがアリスよりも大きいのに、思いのほかジェフリーの身体が小さく見えた。


「そんなことないです。必ず──ウィルと帰ってきてください」


「あぁ、約束じゃ。三人でお酒を酌み交わそう」


「はいッ、約束です────」


 アリス王女が離れると、直ぐさまウィル様がいる場所にテレポートした。

 着いた瞬間、ウィル様はモーガンと激しい戦闘をしていた。

 だが何かがおかしい。

 ウィル様は既にボロボロだった。

 相対する敵は──


「ウィル様が二人──ッ?」


 ウィル様がシェナたちに気づく。

 だが、ウィル様の表情に余裕は無い。


「ダメだシェナッ!! 陛下を連れて逃げろッ!!」


 敵のウィル様がこちらに気付くと、猛スピードでラピッドファイヤを放ってくる。


「シェナぁぁぁぁぁあ!!!!!」

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