王都奪還作戦④ (シェナSide)
ウィル様と別れゲイリーと行動を共にしたシェナは、アリス王女が囚われている地下牢へと向かった。
幸い──侵入した場所から地下牢へ続く階段がある場所は真っ直ぐにあって、すぐ目的地に着きそうだわ。
でも──この国の要人、国王代理を捕えているせいか、モーガン派の兵士が数多く見張りをしていた。
「あなた一人だったら尋問と称して通して貰えるかもしれないけど、シェナが居て大丈夫なの?」
「なにをおっしゃいますか。シェナ将軍を捕らえたと言えば、すんなり通して貰えますよ」
地下牢に入る手前のゲートには魔法はおろか、ユニークスキルをも無効化してしまう、アンチメイジ装置が置かれていた。
シェナがシャドウで通り抜けようものなら、アンチメイジ装置が反応し、シェナのユニークスキル、シャドウは無効化される。
正直──こんなザコ同然の兵士たちと一戦交えて鎮圧してもいいけど、事を大きくして王宮内を慌ただしくするのは控えたい。
出来れば、このまま何も無かったかのようにアリス王女を救出してウィル様の下に向かいたかった。
「では──シェナ将軍、手枷を付けさせて頂きます」
「あまり気乗りしないけど良いわ。やって」
「ちょっと手荒な真似をしますが、どうかご容赦を」
手枷を付けられたシェナは、ゲイリーに引っ張られる形で地下牢のゲートまでやってきた。
兵士たちがゲイリーに気づくと、敬礼をして立ち塞がる。
「これはマーセナス公爵閣下、どういったご要件で」
「王権派のシェナ・マクレーン将軍を捕らえた。捕虜として地下牢に幽閉するから、通してもらいたい」
だが──兵士たちの表情は難色を示していた。
明らかにバツの悪そうな顔だわ。
「どうした。もしかして通せない理由でもあるのか」
「いえ、そうではなくて──」
「申してみよ」
「はい、先程レニツァ公爵閣下がこちらに参られまして、1対1で尋問するから、何人もここを通すなと仰られた次第です」
ネルソン・レニツァ──
あいつの歪んだ性癖は王宮内でも有名だった。
見目麗しい乙女を嬲っては、自分の欲求の捌け口にするバケモノ。
そんな奴がアリス王女と二人きりで居るとなると、かなり危ない。
「でもいいんじゃないか? 先程ご子息のスレブ様もモーガン様の要件をお伝えする前にここを通った訳だし」
「スレブがここに? なら話は早い──通して貰おう」
「か、かしこまりました」
兵士は道を開けると、シェナたちは地下牢に入ることが許された。
でも──さっき、スレブの話が出た瞬間、ゲイリーはニヤリと嗤った気がする。
今の状況下で嫌なことを想像してしまうけど、気にしないでおくのが最善だわ。
長く続く螺旋階段は歩けば歩くほど三半規管がおかしくなる気分に襲われる。
「ねぇ、ゲイリー。質問していいかしら」
「なんでしょう」
「あなたは何故王権派のスパイとして長年モーガン・トゥルメリアの側に居たのかしら」
「だいぶ懐かしい話を振ってきますね。ワタシがモーガンの側に居たのは、元々──マーセナス家はモーガンを国王に添えようとしていました」
先王──タイラー・トゥルメリアは次期国王の指名を遺言として遺さず崩御された。
元々タイラー以上に力があった次男のモーガンと、国民から厚く信頼されている嫡男ジェフリー。
序列的に考えれば、嫡男であるジェフリーが次期国王になるのは明白だったが、次男であるモーガンがそれに待ったをかけた。
勢力は二分され、ジェフリーにはスミス、グレイシー、ギャリック、フローレスの4公爵家。
モーガンには、レニツァ、マーセナスとスミス家当主であったザガルトス・スミスがモーガン派に着いた。
外交省であるフェルナンド公爵家は中立の立場を取ってどちらにも付かなかったけど、嫡男に王位継承の権限があると言ってたわね。
「しかしワタシはモーガンのやり方は好かない。力があっても人から信頼を得るのは別の話。もし──彼が国王になってしまったら、この国は滅亡の一途を辿っていたでしょう」
「だからあなたは、モーガン派を内部から崩壊させる為に、ダグラスと手を組みながら内部工作を計ったのね」
「左様。ワタシは彼らモーガン派の数々の不正を手記に残し、モーガンを失脚させるよう仕向けました」
そして──モーガン・トゥルメリアの数々の不正が表沙汰になり失脚し、ステイシア王国に放逐されたと。
ジェフリーは実の弟をこの手にかけない選択は、当時のシェナからしたら生易しいと思っていたけれど、放逐した結果がこれだわ。
現に──モーガンはクーデターを起こしてこの国の実権を奪おうとしている。
いつの時代も、権力が人を変えてしまうものね。
「あの時──国王陛下はモーガンを粛清するべきでした。しかし、粛清しなかった理由も理解できます」
「モーガン派が解体されなかったことね」
「そうです。国王陛下は彼を粛清してしまった後のことを恐れたのでしょう。モーガンを粛清してしまったら、モーガン派の貴族と融和を計るどころか、溝が出来たままになってしまう。だから──敢えてモーガンを殺さずに放逐されたのでしょう」
そこがジェフリーの優しいところでもあるけど。
対立してても大事な弟だということは変わりないのだから、せめて他の国で安生できるようにと取り計らった気持ちも分かるわ。
「────さて、話はここまでです。誰かが近づいて来ます」
シェナたちは立ち止まると、向かいから誰かが歩いてくる足音が聞こえた。
音からして二人分の足音ね。
シェナは咄嗟に構える。
やがて──足音の主が現れた。
「アリス王女ッ、それに──スレブ……?」
スレブがアリス王女を支えながら出てきたではないか。
アリス王女にはスレブの礼装が肩から羽織られており、中に着ているドレスはビリビリに引き裂かれている。
「シェナ……助けに来てくれたのね」
「アリス様、救援が遅くなり申し訳ございません」
「シェナ将軍とマーセナス卿……なんでこんな所に」
「アリス様を救出に参りました。ゲイリーはその道案内」
ゲイリーはシェナに嵌めている手枷を外した。
シェナはアリス王女の下に向かう。
アリス王女は酷く憔悴した表情だった。
「スレブ、レニツァ卿が中にいたと思うがどうした」
「あ、いや……その……」
言わなくても分かる。
スレブはアリス王女を助けるために自らの手で父親を殺めたのであろう。
彼の手はその血で汚れていた。
「それ以上は言わなくていいわ。とりあえずここから脱出しないと。シェナひとりではこの人数は守れない」
ここの地下牢は魔法やユニークスキルが使えない。
ウィル様から頂いた二丁拳銃も魔力を動力源にしているから使い物にならないわ。
アケチ桔梗流も長引けば不利になるから燃費が悪いし、無駄な戦闘は極力避けたかった。
「ところで──ネルソンはどこに居る。見るからに君が手をかけたのは間違いなさそうだが」
「アリス王女殿下を幽閉していた牢に置き去りにしてます。深く刺したので致命傷だとは思いますが」
すると──いきなりゲイリーは高らかに笑った。
けど、その表情はどこか苦しいようにも見えた。
「あのブタ野郎ッ、あっさりに死にやがって。ワタシが……ワタシが殺してやりたかったのに……。でも自分の息子に殺されるなんていい気味だ。ザマァねえ!!」
「げ、ゲイリー……?」
「これは失礼。奴には大きな恨みがありましてね。ワタシの手で殺したかったのが本音ですが、既に殺されてしまったのなら仕方ありません」
シェナはこれ以上追求することはしなかった。
誰にだって殺したいくらい憎い相手は居る。
ゲイリーはそれがネルソンだったってことだけだし、今追求したところで無意味だ。
「ですが────この怒りはどこに吐き捨てればいいのでしょうかね。そうだ──息子のスレブに償って貰いましょう」
「やめなさいッ!! それ以上はただの逆恨みよ」
「逆恨み──? 違いますよシェナ将軍。これは粛清です」
ゲイリーは懐からナイフを取り出した。
その目線にはスレブが居る。
「カネや権力に汚いレニツァなどこの国から消し去ってやったほうが、この国の為なんですよ。その責任は息子のスレブにもあるんだ」
「あなたが過去になにをされたか知らないけど、罪もないスレブを殺すのは間違ってるわ」
「なら教えてやるよッ!! ネルソンはワタシがモーガン派の情報を流した罰として大事な妹を拉致監禁し暴力を振るって嬲り殺したんだッ!! しかし──あいつは裁かれなかった。それどころか無かったことにしたんだッ!!」
だからゲイリーはこんなにも復讐に燃えていたのね。
彼の気持ちは痛いほど分かる。
シェナもそうだった。
境遇は違えど、色んな奴から暴力を受けるのは心が荒んでしまう。
それでも──その一族であるスレブを殺すのは間違っている。
「もういいだろシェナ・マクレーン。ワタシを楽にしてくれ。妹をこんな薄汚いレニツァに殺され、悪魔に息子まで殺されたんだ。ワタシの復讐など些細な出来事なのだよ……」
ゲイリーの頬からは一縷の涙が流れた。
確かに──彼はたくさんのものを失った。
復讐したい気持ちも分かる。
けど──それでも前を向いて必死に戦っている人たちをシェナは知っている。
知っているからこそ、スレブを殺させるわけにはいかなかった。
「分かったわ。でも、彼は殺させない。ネルソンが死んだ今、あなたの復讐は終わったの。これ以上血が流れることはシェナが許さない」
「なにも、なにもなにもなにもッ!!!! わかってないッ!!!! 結局他人事で────」
「────ったく、話が長ぇったらありゃしないぜ」
いきなり──地下牢がある方向から人の声がした。
その声は人の神経を逆撫でし、不快感を与える声。
アリス王女の身体がビクッと強ばった。
「こうなるならお前ら全員殺して脱出したほうが早かったな」
「ネルソン・レニツァ……」
「あぁ、そんなような名前をしてたなぁ」
いや違う──シェナにな分かる。
こういうヤツらは独特な臭いを発する。
それがどういうヤツか考えることなど必要ないくらい分かっていた。
「あなた、悪魔ね」
「俺の名前はアウナス。アミーって呼んでくれ」
今一番対峙したくない敵を前にし、シェナの頭の中は、あらゆる思案を巡らした。
「さて、どうしましょうかしら────」
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