王都奪還作戦③ (ケインSide)
師匠とポーン・ディグルの戦いが始まり、先手を取ったのはポーンだった。
土魔法で人型眷属を作り上げる。
その数──ざっと10体。
通常、人型眷属は術者を守るために壁として生成される無機物で、直接攻撃することは出来ない。
だが──ポーンの人型眷属は違う。
彼の術が届く範囲なら、例え人型眷属であろうと攻撃は可能になる。
簡単な攻撃から魔法まで繰り出すことができ、圧倒的な数的有利を作り出せる。
「さすがはSランクハンターと言いましょうか。多少なりとも戦いに於いて、数も大事だと言えることは分かっていますね」
「なんだ絶拳。俺様の眷属が攻撃すると知って怖気付いたのか?」
「笑わせるな小童。貴様はまだ若い。戦いの本質における大事な物を知らぬようだ」
「なーにが本質だ。物量で押し込まれたら元も子もねえだろッ!!」
ポーンが操る人型眷属が師匠に襲いかかる。
動きは目で捉えられる程度。
武器は土で生成されているため然程の強さは無いだろうが、それでも人を斬れるくらいの強度はあるだろう。
次々と師匠に襲いかかる人型眷属だが、師匠はそれをひらりと躱し、一体ずつ処理していく。
だが──ポーンは次々と人型眷属を生成しては、師匠に襲いかかった。
「これではキリがありません。俺も加勢しないと」
「やめておけケイン。叔父貴は見極められている」
「見極めるって……一体なにを?」
「これをみろ」
ガルド卿は師匠のステータスを僕に見せてきた。
ガルド卿はこの国でも唯一の鑑定スキル持ちで、数値化した人間のステータスを見ることができる。
「叔父貴の体力を見てみろ。一切攻撃を受けてないのにも関わらず、ジリジリと体力が減らされているのが分かるだろ」
──そういうことか。
ポーンのユニークスキルはライフスティール。
自身の人型眷属を介してスキルを発動することは可能で、師匠は敢えて様子を見ながらライフスティールの発動限界時間を見極めていたのか。
だとすれば、師匠はポーンが最初っからライフスティールを発動して、アドバンテージを取ってくるだろうと予測してたことになる。
「ユニークスキルの発動限界時間は個人差もあるが、おおよそ3分ってとこだ」
しかし──ポーンがライフスティールを発動した時間が師匠に襲いかかった時だと仮定すれば、3分はとうに過ぎている。
それでも師匠の体力は削られていく一方だった。
だが、俺はある事に気がつく。
「師匠の体力削られているのに75パーセントのところから減っていない……」
確かに師匠の体力はライフスティールによって削られている。
しかし、ゲージは一つ減って一つ増えてを繰り返していて、それより下に下がることは無い。
「気づいたか。叔父貴の持つ『気』だよ」
「────そういうことかッ」
ライフスティールは相手の体力を奪うスキル。
だだ──師匠の『気』で自身の体力をカバーし、体力では無く『気』を奪わせていたのだ。
ポーンがいくらライフスティールで『気』を奪っても、『気』は体力や魔力に変換されないので無意味だった。
しかもそのことにポーンは気づいていないのだろう。
余裕の表情を浮かべていた。
「素晴らしすぎます……師匠」
「そろそろスキルの発動限界時間ではないのかな?」
「おいおい、そこらへんの一般人レベルで片付けんなよ。俺様のライフスティールの発動限界時間は1時間をゆうに超えるんだぜ? いつまで涼しい顔してられるかねぇッ!!!!」
「い、1時間……そんなのアリなんですか……」
俺は耳を疑った。
だからポーンは、平均的な発動限界時間を越しても余裕の表情を浮かべていたのか。
なら──これからどう対処していけばいい。
だが俺の心配とは裏腹に、勝負は呆気なく終了する。
「そうですか。しかし──残念です。たったそれだけのことしかして来ない貴様に、わたくしは心底失望しました。もし貴様が許されるようなことがあれば、是非Fランクからやり直して頂きたい」
「なにをごちゃごちゃと。体力吸われすぎて頭おかしくなったか?」
「ガルド──出番です」
「了解しましたァッ!!!!」
師匠の掛け声でガルド卿は空高く飛び跳ねると、トーマスさんが発動した障壁をゆうに飛び越えた。
それと同時に師匠は、爆発的に移動速度が上がる──絶瞬を繰り出す。
地面に着地したガルド卿は、直ぐさま魔法を発動させる。
「サンダァァァァボルトォォォォォ!!!!!!」
ガルド卿が発動させたサンダーボルトが、轟音を轟かせながら人型眷属に直撃する。
人型眷属は一瞬にして灰になった。
「カマルッ!! 突入しろッ!!」
「了解ッ!! 行くぞお前らぁぁぁあ!!!!」
「「「うおおおおおおおおお!!!!」」」
暴徒化したハンターの横の路地裏に待機していた、カマルさんの別働隊が動いた。
いきなりの突撃に、ハンターたちは混乱したまま為す術なく後退りしてしまう。
だが──彼らの逃げる道には、バリアと障壁で二重になった壁が行く手を阻む。
「おっと──ちなみに、障壁にはサンダーショックも練り込んでおいたから、触れると感電するよ」
トーマスさんの無慈悲な忠告はハンターには届かず、そのままハンターたちは感電してしまった。
「だから言ったのに。まあいいや。ぼくは仕事しただけだからね。あとは頼みましたよ、ノーマン様」
人型眷属を一気に倒されたポーンは丸腰同然だった。
絶瞬で迫り来る師匠を防ぎ切る術はない。
余裕な浮かべていたポーンの表情は、一瞬にして絶望に変わっていた。
「貴様に足りないものを教えてやろう。それは──戦いに勝つことの貪欲さと知恵だ。貴様の浅知恵など、わたくし程度でも簡単に見破れる。楽して上に上がってしまったツケが回ったな。ポーン・ディグル」
「や、やめてくれ────俺様の負けだッ、許してくれえええええ」
「問答無用ッ」
師匠の右手に『気』が収束されていく。
「絶拳────ッ」
解き放たれた絶拳は、ポーンのアゴにクリーンヒットした。
後ろにあった何枚もの壁を突き破り、ポーンは飛んでいく。
それが収まると、ポーンが立ち上がることはなかった。
「やった────やりましたッ!! ポーン・ディグル、無力化成功ですッ」
市街地は大きな歓声に包まれた。
幸い、暴徒化したハンターもこの場に集結していたこともあり、一気に鎮圧に成功したのであった。
「Sランクハンターだと言うから身を構えたものの、蓋を開ければBランク程度の青二才であったな」
「それでも師匠は敵を簡単に倒せることに、俺は驚きを隠せません」
「この勝利はわたくし一人の勝利ではない。ケインの策があってこその勝利だ。礼を言う」
師匠は俺に頭を下げた。
「頭を上げてください。俺はみんなに指示を出してただけです。俺の方こそ、ありがとうございます」
とはいえ──暴徒化したハンターたちを鎮圧して、王都は平穏を取り戻せるだろう。
しかし──問題は何故Sランクハンターであるポーンが王都で狼藉を働いたかだ。
富や地位を手に入れた彼にはなんのメリットも無いはずだ。
むしろ暴動を起こして失敗したら、困るのは彼のほうだ。
俺は拘束されたポーンの目の前に座る。
「ポーン・ディグル、君に幾つか質問がある」
「あ? ……ふっ。誰かと思ったら、後ろでコソコソ芋ってたスミス家のボンボンじゃねえか」
「俺はみんなに指示を出していただけだ。ところでポーン、君は何故このような狼藉を働いた。Sランクハンターである君に暴動を起こす理由などないだろう」
ポーンはまた鼻で嗤った。
まるで俺の言葉が見当違いかのように。
「何がおかしい」
「お前みたいなガキには分からねえことだろうな。俺たちハンターは、貴族の良いように使われて使い終わったらゴミのように破棄される。それに嫌気がさしただけだ」
「一体なにを言ってるんだ」
「貴様ッ!! 涼しい顔しやがってッ!! てめえらはそうやって俺たち平民上がりのハンターを蔑ろにしてんだろうがッ!!」
ダメだ────彼の言っていることが分からない。
俺たちが国民やハンターを蔑ろにしている?
寧ろその逆だ。
俺たち貴族は、より良い国を作ろうと努力を絶やさないし、国民に還元だってしている。
けど──ポーンの口ぶりから察するように、俺たち貴族が国民やハンターを食い物にしているような言い方だった。
「だから俺様は全てを正すために立ち上がった。至福を肥やし俺たちを蔑ろにするお前らを倒す為に」
だが──彼が次に放つ言葉に、意味不明な言葉は一気に紐解かれる。
「全ては────全ては、偉大なる御方のために」
「師匠ッ!!」
「どうしたケイン」
「大至急、アンジェラ将軍を派遣してください。一刻を争います」
「この件にアンジェラがどう関わっていると言うのだ」
俺の読みが正しければ、ポーンは悪魔に洗脳されている。
偉大なる御方というワードが出てきた瞬間、それを物語っていた。
ただのクーデターだと思っていたこの騒動の裏には、正体不明の悪魔が糸を引いている。
アスモデウスか? アザゼルか? それとも──
「王宮に居るウィルたちが危ないんです。早くしないと──」
「落ち着けケイン、まずは説明をしてくれ」
「このクーデターには悪魔が裏で糸を引いてます。ポーンの口から偉大なる御方という言葉が発せられました。おそらく──彼は悪魔に洗脳されてこの暴動を引き起こしたのでしょう。なので彼の洗脳を解くためにも、アンジェラ将軍の力が必要です」
「わかった。アンジェラに応援要請をする」
師匠はアンジェラ将軍に念話を飛ばす。
俺はポーンが逃げないよう、更に拘束を強くした。
「アンジェラはすぐこっちに向かうそうだ。ケイン、これからどうする」
「俺と師匠はアンジェラ将軍が着き次第、王宮に向かいます。他の人たちは暴動の後始末と、市街地に残る人達の避難を進めてください」
このクーデターに必ず悪魔は絡んでる。
そして──彼らの目的はウィルだ。
その為にアリス王女を誘拐して、ウィルをおびき出しているのだ。
モーガンからしたら最大の脅威であるウィルを排除できるし、悪魔からしたら偉大なる御方と言われている奴の器を手に入れることが出来る。
今王宮内には、ウィルの味方はかなり少ない。
そんな中で、ウィルはシェナと共に王宮に潜入したのだ。
このままでは──ウィルの身が危険だ。
早く助けに行かないと。
「ウィル──どうか無事でいてくれ」
俺はウィルの身を、切に案じた──
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