23. 王都奪還作戦
王都セリカの市街地にある洋服屋の鏡にゲートを繋げ通ると、跪きながら頭を下げているノーマンが目の前に居た。
外を見なくても、外は悲鳴と怒号が響き渡っているのが伺える。
「お待ちしておりましたウィル様」
「今の状況は?」
「はい。念話でお伝えした通り、市街地は暴徒化したハンターが暴れ回り、強奪と殺戮の限りを尽くしています。ギルドマスターのガルドが対処していますが、数が多すぎて対処しきれません」
王都セリカに居るハンターは素行が悪いことで有名だ。
ガルドは再三、再更生プログラムや処罰によってハンターたちの風紀を正して来たが、それには限界がある。
しかも──ガルドは王権派のひとりで、相手にするのは暴徒化したハンターだけではない。
王権派狩りを行っている、モーガン派の兵士たちも相手しなければならないのだ。
「となると、数で不利な僕たちは今居る人員で鎮圧しなければならないのか」
「左様。しかも──相手がどれだけの数を擁しているかも分かりません。無闇に鎮圧行動に出てしまうと、きっと袋のネズミにされましょう」
だからといってここで指をくわえて見ている訳にもいかないのが現状だ。
ただ──策は無いわけではない。
その考えはシェナも理解していた。
「ウィル様、グレイシー領のカマルに連絡を取られてみては?」
カマル・ボーゲン──
父さんの右腕で、脳筋部隊……前線部隊の総隊長を務めている。
「それは僕も思った。ただ、念話をするにしてもここからグレイシー領まで念話は届かないからどうしたものか」
「それならご安心ください。カマルには既に連絡済みです。あとはこちらがゲートを通せば、カマルたち応援部隊もここに到着します」
さすがノーマン。
僕がダンジョンから帰ってきてクーデターを知って対応していたら後手に回ると悟ったのだろう。
予め対応してくれていただなんて。
シゴデキのイケオジだ!
「こっちには時間が無い。さっそくゲートを通すよ」
僕は鏡に向かってゲートを発動させた。
ゲートからガルド率いる前衛部隊が出てきた。
その数はおよそ30名。
前衛部隊の兵士は全員重装備を身にまとっている。
何故かトーマスも居るけど。
「ウィル様、ノーマン様、それにシェナ将軍にスミス卿。あなた方にお力添えでき光栄です」
「堅苦しい挨拶はいいよ。それと──トーマス、君も来てくれて助かる」
「これはこれは、おちびのウィル様。相変わらず小さいのは滑稽の極みですが、ぼくが助太刀するからにはもう大丈夫ですよ」
相変わらずの減らず口だな。
久しぶりに会おうがなんだろうが、僕を見た瞬間身長イジりしてくるのは彼の常套句だと思って諦めているが、やはり久々に聞くとちょっとムカつく。
でも、これでもトーマスは後衛部隊の総隊長を務める実力者だ。
カマル同様、応援に来てくれるのはありがたい。
「トーマス、ウィル様に対する無礼、万死に値する」
「おっと、シェナ将軍まで居たんですね。これは失礼しました。どうかお気になさらず。それに──」
「──アンジェラはおらんぞ」
ノーマンはいきなり、トーマスを至近距離で睨みつけた。
そういえばトーマスってアンジェラのこと大好きだったよね。
でもアンジェラの旦那であるノーマンを目の前にこんなことを言えるなんて、やっぱトーマスって馬鹿なの?
何も考えてないの?
「ノーマン様、ぼくはまだ何も言ってませんよ? ちょっと早とちりが過ぎませんかね?」
あ、やっぱりちょっとビビってた。
そりゃ国内でも指折りの強さを誇るノーマン・グレイシーですからね。
こんな鬼の形相で睨まれちゃ怯まない人間は居ない。
「お前の言わんとしていることは分かる。もう一度言おう、ここにアンジェラは居ない」
「わかった、分かりましたってッ!! ──ったく、おっかないったらありゃしない……。それより、作戦はどうなさるのですか」
ようやく本題に入れるよ。
時間が無いって時なのに、トーマスは本当に減らず口だ。
僕は近くにあったペンを取ると、王都セリカの市街地の地図を描く。
「まず──僕たちが居る洋服屋はここだ。洋服屋を出て左に5ブロック進むとギルド本部がある。そこにはカマルたちの部隊とノーマン、ケインが鎮圧に向かって欲しい」
「かしこまりました。ウィル様はどうなされるのですか?」
「僕はシェナと共に王宮に入る。おそらく──モーガンの狙いはこの僕だ」
モーガンを討たなきゃこの戦いは終わらない。
被害を最小限に抑える為にも、僕がモーガンと対峙して決着を着けるしかないのだ。
「ではさっそく向かうとしましょう。カマル、トーマス、ケイン、わたくしに着いて来なさい」
「「「仰せのままに」」」
ノーマンたちは洋服屋を後にした。
洋服屋には僕とシェナだけが残される。
「シェナ、これから王宮に向かうけど準備は良い?」
「いつでも大丈夫です。しかし──どう潜入するおつもりですか?」
「それは堂々と侵入するよ。──オールインビジブル」
オールインビジブル──
自身の姿や気配を消す魔法で隠密行動にはぴったりの魔法だ。
と言っても、シェナはユニークスキル・シャドウで姿を消せるから必要ないけどね。
「それとシェナ、これを渡しておくよ」
僕はインベントリから二丁拳銃を取り出した。
それをシェナに渡す。
「これは────」
「シェナ専用の二丁拳銃だ。殺傷能力を極限まで抑えたから人を殺すことはないけど、扱いには十分気をつけてね」
シェナの目はキラキラと輝いていた。
そういえば──二丁拳銃が欲しいとか前言ってた気がする。
並の人間がシェナの攻撃を喰らったら、おそらく死んでしまうだろうし、そうさせない為にも殺傷能力を抑えた二丁拳銃ならば人を殺さずに済む。
シェナは直ぐさま、二丁拳銃に自身の魔力を込めた。
「ありがとうございますウィル様。一生物の宝にします、家宝にします」
「大袈裟だよ。さて──行くよ、シェナ」
「はい、仰せのままに」
僕たちは勢い良く洋服屋を飛び出した。
オールインビジブルのお陰か、他の人たちには僕らの姿は見えない。
市街地はどこもかしこも火の手が上がっていた。
「これは酷い……」
「えぇ、しかし──ここはノーマンたちに任せて王宮に向かいましょう」
「そうだね」
ここから右に進んで8ブロック進むと、王宮がある。
ノーマンの情報では、王宮の城壁前にはモーガン派の兵士が大勢見張りしているとの事だけど、出来れば無益な殺生は控えたい。
やがて──王宮前に着くと、ノーマンの言う通り大勢の兵士が見張りをしていた。
その数50。
「さすがにこの人数を相手するのは無理があるね。姿を隠してよかったかもしれない」
「王宮にはどう入られますか」
僕は王都セリカを守る大結界同様、同じ結界を王宮に張っていた。
なのでテレポーテーションで侵入は不可能。
王宮内の鏡は全て割られているし、正攻法で入るには、大勢の兵士が張っている城門を通らなければならなかった。
だが──こういうことが起こるかもしれないと想定した僕は、ひとつだけ抜け道を用意していた。
「こっちだシェナ」
僕はシェナとともに、城壁に沿って旋回した。
やはり──城門前だけ兵士を密集させていたのか、城門が無いところには兵士は配置されていなかった。
僕は城壁に手を充てる。
すると、目の前には人が一人通れるドアが現れた。
「ウィル様、これって──」
「うん、こんな時のために抜け道を用意しておいたんだ。基本脱出経路に使う予定のものだけど、このドアの存在は、父さんと国王陛下、アリスしか知らないんだよね」
「恐れ入りました。てっきり──あの大勢の兵士を薙ぎ払って強行突破するのかと──」
「そんな物騒なこと言わないで。モーガン派の兵士たちだけど、元はトゥルメリアの大事な兵士なんだ。彼らは上の命令で動いてるから、自分の意志を押し殺して任務に当たってる人だって中には居る。そんな人達を殺す訳にはいかないよ」
「申し訳ございません……」
「謝らなくていいよ。シェナは戦うことが仕事なんだから、そう考えるのは普通だよ」
ドアを開け王宮内に入る。
────が、目の前にはマーセナス家当主、ゲイリー・マーセナスがそこに居た。
だがおかしいのは、彼は跪いて頭を垂れていた。
「ウィル様お下がりください。こいつは敵です」
「待ってシェナ────。本当に敵ならこんなことしない」
僕はシェナを制して前に出る。
「そこに居られるのは、ウィル・トゥルメリア王子殿下ですね。お待ちしておりました」
オールインビジブルを発動しているのに、僕の存在を見破っただと?
しかし──彼には交戦の意志は感じ取られなかった。
寧ろ、僕に忠誠を誓っているように見える。
オールインビジブルを解除して姿を現した。
「ゲイリー、一体どういうつもりだ」
「話は後ほど。まずはアリス様が捉えられている地下牢に案内します」
「いや──話が先だ。僕は貴様を信用していない」
僕はインベントリから刀を取り出し構える。
シェナも警戒しているのか、ゲイリーに向かって二丁拳銃を構えた。
「ワタシは長年、モーガン・トゥルメリアを監視していたスパイです。ワタシの忠誠心は、ジェフリー・トゥルメリア国王陛下にあります」
「それを証明するものは」
『安心しろウィル──そいつは敵じゃねえ』
いきなり──父さんの念話が飛び込んできた。
ゲイリーは再び僕に頭を垂れる。
どうやら、ゲイリーは本当に敵ではないようだ。
刀をインベントリにしまうと、シェナも二丁拳銃を下ろす。
『父上、彼を信じていいんですね?』
『もちろんだ。過去、モーガンを失脚させたのはゲイリーのお陰だ。俺が保証する』
『わかりました。彼を信じます』
念話はプツリと切れた。
このまま長い時間念話をしていると、モーガンに居場所をバレてしまう可能性がある。
ここから先は、ゲイリーと行動しろということなのだろう。
「悪いけどゲイリー、ここから先はシェナと行動を共にしてくれ。僕は一人で行動する」
「ウィル様ッ!」
「悪いシェナ。アリスの救出はシェナに任せる。僕はモーガンと決着を付けなければならない」
「…………かしこまりました。どうか無茶はなさらぬよう」
「うん、ありがとう」
少し納得していない表情のシェナだったが、アリスを救出しかつ、モーガンを倒すと考えたらこれが一番の策だろう。
シェナには悪いけど。
「ゲイリー、案内してちょうだい」
「シェナ将軍こちらです」
シェナとゲイリーは王宮の中へと入って行った。
一人残された僕は、王宮を見上げる。
モーガンは何故ここまで権力を欲しているのだろう。
実の兄である国王に危険を及ばせたり、実の姪を地下牢に幽閉したり、そして──トゥルメリアの民たちに危害を加えたり……
あなたは何がしたいんですか。
恐怖で塗り固められた政治は、恐怖でしか統治できないんですよ。
そんな独裁者に、誰が着いていきたいと思うでしょうか。
そしてその恐怖政治には、必ず綻びが生じます。
その国に未来はありません。
だから──モーガンを止めないと。
僕はモーガンに会うために、王宮内へと足を運ばせたのだった──
最後までお読み頂きありがとうございます。
【面白かった】【続きが読みたい】と思っていただけましたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします!
今後のモチベーションにもなりますので、正直な感想のほど、よろしくお願いいたします!
ブックマーク登録とX(旧Twitter)のフォローも併せてよろしくお願いします!




