いざ、ダンジョンへ④
フロアボスの部屋に入ると扉は勝手に閉まり、真っ暗だった部屋は唐突に明るくなった。
壁にあった松明が火を灯し、中の様子が伺える。
部屋の中は大きな広間になっていて、前を見るとフロアボスらしきモンスターが鎮座していた。
ノエルとニーナを前に出して、僕、アンジェラ、ニーナは扉の近くで距離を取るように待機する。
「どうやら、あれがフロアボスだね」
「えぇ、見た感じゴブリンでしょうか」
「でも普通のゴブリンとは違うわ。ゴブリンロードかしら」
低層を踏破していく中でも多くのゴブリンに遭遇してきた。
だが、低層のゴブリンとは様相が違く、通常のゴブリンよりも身体が大きく、頭には兜、棍棒ではなく剣を持っている。
「ノエル様、前衛はワタシが務めます。ノエル様はワタシが気を引いているうちに遠距離で魔法攻撃を放ってください」
「わかったわ」
「それでは参ります」
ニーナは無詠唱で雷鳴剣を発動すると、ゴブリンロードに向かって走って行く。
ゴブリンロードはニーナが間合いを詰めているのを感じたのか、大きな咆哮を上げ剣を振りかざした。
ゴブリンロードとニーナの距離がゼロになった刹那、振りかざされた剣を避けるように横にスライドし、直ぐさまゴブリンロードの左腕に雷鳴剣の斬撃を食らわした。
ゴブリンロードはボトリと斬り落とされた左腕を見るや、自分が何をされたのか理解すると、痛みによる大きな咆哮を上げる。
「ニーナさんやるわね」
「相手の動きをしっかり見て避けてるわ」
「しかも──回避行動から攻撃動作に入るまでの一連の流れがスムーズで無駄が無い」
通常、回避行動を取ったあとの攻撃は少しばかりのディレイが生まれる。
もし相手が盾を持っていたらディレイのお陰で防がれるということがよくあるのだが、ニーナの攻撃は回避行動を取った後直ぐさま攻撃に転じている。
これは盾を持っていたとしても容易く防げる攻撃ではない。
おそらく、こういうケースを想定して鍛錬を積んできたのだろう。
事務職に収まるのは惜しい人材なのは、少しばかり父さんの気持ちも理解できる。
「ノエル様ッ!! 相手は隙だらけですッ!!」
「ありがとうニーナッ!! 次はわたしの番だわッ」
ノエルは矢を番えるポーズを取った。
右手を引くと、緑色に光った矢が顕現する。
「あれは、精霊弓だわ」
「へぇ、ノエルも扱えるのね」
「ハーフエルフのノエルだったらまず有り得ないわ」
「それはどういうこと?」
「精霊弓は純血のエルフでしか扱えない技なの。でもノエルはメヒア様から祝福を得ているから、そのお陰でエルフの技も扱えるのよ」
神の祝福すごくないですか?
てことは、同じく祝福を受けている僕も使えるってこと?
でもエルフじゃないからさすがに無理だよね。
僕も見様見真似で矢を番えた。
すると──白銀に光る矢が顕現したではないか。
「ウィル様ッ、それはッ!!」
「え、なんかできちゃった……」
「本当にこの人は規格外だわ……」
なんかごめんなさい。
僕もできるかなーって出来心でやったら出来ちゃいました。
話を聞く限り古来から続くエルフの技って感じがするし。
でもノエルの矢の色と僕の矢の色は違った。
人によって矢の色って違うのかな。
まあそこは個体差ってことで。
再びノエルたちに目を向けると、ノエルは精霊弓を発射させていた。
ゴブリンロードは剣で精霊弓を弾くが、ノエルは直ぐさま次の矢を番える。
それを空中に発射させると、間髪入れずに次の精霊弓をゴブリンロードに放った。
真っ直ぐ放たれた精霊弓はまたしてもゴブリンロードに阻まれてしまう。
だが────
「それは陽動。あなたを狙うのは──」
さっき空中に放った精霊弓がゴブリンロードを目掛けて落ちてくる。
それに反応できなかったのか、精霊弓はゴブリンロードの右肩に突き刺さり、ボトリと切断される。
これでゴブリンロードは攻撃する手段を失った。
近くで待機していたニーナが、ゴブリンロードの首を目掛けて雷鳴剣を振り抜いた。
「これで終わりです」
ゴブリンロードの首が落ちると、相手は絶命しただの肉塊へと成り果てた。
戦いが終わると、僕たちはノエルとニーナの元に駆け寄る。
「やったねッ ニーナ」
「はいッ ノエル様の弓術もお見事です」
「ニーナの雷鳴剣も凄かったわ。あなた本当に事務方なの?」
本当に事務方にしておくのは勿体ない逸材だよ。
魔力制御もさることながら、相手の攻撃を見切り即座に攻撃に転じる動作は並のハンターでは真似出来ない芸当だ。
ニーナが凄いのもそうだが、ノエルも中々の腕前だ。
正確無比な弓の扱いに、精霊弓の威力。
真っ直ぐ射抜いた矢よりも、弧を描いた矢の方が威力が段違いだった。
もしかしたら、この二人良いコンビになりそうだ。
「二人とも完璧なコンビネーションだったよ」
「あ、ありがとうございます、ウィル様」
「これでわたしも戦えるって証明できたわ。これからはわたしもウィルのことを守るからね」
「うん、その時はよろしくね」
ノエルの神聖魔法が見たかったけど、なにせ相手はゴブリンロードだ。
正直あんな小物相手に使うような魔法ではないのは分かっているが、これからの長い人生いつでも見られるだろう。
「そろそろ戻りましょう。夜のダンジョンは危険です」
「そうだね。さて──行くか」
どうしてこんなにも帰りを急いでるのかって?
ダンジョン内は迷宮なのでもちろん日が当たらないが、時間感覚というものは存在する。
昼間は階層ごとの適正の強さのモンスターが生息しているが、日が暮れて夜になるとその強さは段違いに増していく。
ゲームでも夜出歩くと強いモンスターが出てきてやられるってことがあるだろ?
無駄な消耗や戦闘を避けるため、日が暮れる前にダンジョンから出なければならないのだ。
幸い──ノエルとニーナが戦闘したゴブリンロードは、時間帯的にまだ日が落ちてないから戦えたものの、これが日が暮れるともしかしたら僕たちが介入する羽目になっていたかもしれない。
そこのところは少しヒヤヒヤしてたけどね。
「さぁみんな、僕から離れないで。オールテレポーテーション」
オールテレポーテーションを発動させると、ダンジョンから一気に居城まで転移させた。
転移が終わると、見慣れた広間が目に映る。
「あー楽しかったッ!! ひとまずダンジョンは問題ないね」
「そうですね。これなら滞りなくハンターたちをダンジョンに入れて大丈夫でしょう」
「あとはギルドと宿泊施設の建設を待つだけです。その取り仕切りはシェナが行います」
「頼むよシェナ」
「はい、仰せのままに」
さて、今日の仕事はこの辺にしてと。
汗もかいたしお風呂にしようかな。
僕が浴場に向かおうとすると、遠くから慌ただしい足音が聞こえてきた。
それはこっちに向かってきている。
「ウィル──ッ!! ウィル──ッ!!」
その声はケインだった。
僕を見つけると一目散に走ってきて、目の前に着くとガシッと僕の肩を掴んだ。
表情も動揺が入り交じった険しい表情で、これは嫌な予感がする────
「やっと見つけたッ!! どこに行ってたんだッ!!」
「どこって、ダンジョンだけどどうした?」
「どうしたじゃないッ!! 大変なことになった」
「大変なこと──?」
「実は────」
ケインから発せられた言葉に耳を疑った。
それと同時に怒りを覚えた。
僕ならまだ良い。
なんでそんなことを──
「ウィル──どうしたの?」
ノエルが不思議そうに僕を見つめる。
「アリスが……攫われた───」
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