いざ、ダンジョンへ③
オールアナリシス──
その土地の地形や形状を調べる魔法で、土地に関わらず建物の内部構造なども調べられる魔法だ。
「分析が完了したわ。ここ一帯は元々低層階で、リザードマンが住み着いてから中層に変化したみたいね」
ノエルはそう言うと静かに立ち上がった。
いやいや──待って。
今確実にオールアナリシスを使ったよね。
オールと名のつく魔法は神聖魔法しかない。
もちろん、僕自身も神聖魔法を行使できる為オールアナリシスは扱えるが、ノエルはハーフエルフだ。
ハーフエルフは人間と同等の魔力しか保持しておらず、神聖魔法を行使することは絶対に無理だ。
しかし──ノエルは神聖魔法を扱える。
現に僕の目の前で神聖魔法を行使したのだ。
訳が分からない。
自分が持ってる情報と、現に起きている事象の乖離が大きすぎて頭が追いつかない。
周りを見ても、皆はノエルが神聖魔法を使えることに驚いた様子は見えない。
もしかして、知らないの僕だけ?
「今、はぐれのリザードマンを倒したから、ここは直に低層階に戻るはずよ」
「ノエル────」
「ん? どうしたの?」
僕はノエルの両肩をガッシリと掴む。
ちょっと力が入りすぎたのか、痛っと声を漏らした。
「どうして神聖魔法が使えるんだ? いつから使えるの? 神聖魔法の持続時間は? 詠唱破棄はできるの? オールピュリフィケーションも使える?」
「ちょ、ちょっとウィル!? そんなにたくさん質問しないでよ」
「仕方ないじゃないかッ!! ノエルが神聖魔法を使えるんだよ? この世の理を考えたら、ノエルは神聖魔法を使えないハズなんだ」
「ちゃんと説明するから落ち着いて」
ノエルは僕に神聖魔法を扱えるようになった経緯を、詳しく教えてくれた。
話を聞き終えると、なんともいたたまれない感情が僕の心をくすぐる。
実際に神に会って会話した身からすると、神の気まぐれで力を授けたからに違いないからだ。
ノエルは自分が無力だと理解し力を欲し、自分自身で未来を切り開くため毎日神に祈った。
それをどこからか聞きつけた神は、純粋無垢なノエルに力を授けたのだろう。
「ノエルが来てくれなかったら、私とシェナは、アスモデウスに負けてましたわ」
「シェナもあの時は死ぬと思ったわ。策も魔力も体力も尽きてたからね」
シェナとアンジェラがアスモデウスに勝てたのは、ノエルのお陰だったのか。
ということは、直接神から祝福を受け神聖魔法を授かったのは僕だけじゃないってことになる。
だとしたら、本当に神の気まぐれでノエルに祝福を授けたのか?
それとも何か大きな何かを企んでいて授けたのか?
神と話して、最後に言っていた『誰かの為に、強いては自分の為に、誰かを愛せ』という言葉が妙に引っ掛かる。
「ウィル様どうなさいましたか?」
考え込んでいる僕を心配してか、ニーナが顔を覗かせた。
「────ん? あ、あぁ。なんでもない。少し考え事してただけ」
考えても仕方ないか。
ノエルに祝福を授けたのは、きっと気まぐれに違いない。
あの時の言葉だって、成人しても未だに相手を見つけなかった僕に対してのお節介だろうし。
とにかく──深く考えても仕方ないだろう。
まさしく神のみぞ知る──てことだ。
「ノエルが神聖魔法を使えるのは正直驚いてるけど、ところで──さっき、はぐれリザードマンがどうとか言ってなかった?」
「うん、ここは元々低層階だったの。でも、中層のリザードマンがここに来てしまったために、一階層の生態系に変化が出てきてしまったという考察よ」
「確かに──低層階のモンスターからしたら、リザードマンなんて束で掛かっても勝てないですね」
その考察が正しいとすれば、リザードマンと対峙したのは一体のみ。
僕たちは暫くここに停滞しているが、他のリザードマンが襲ってくる気配はない。
だとすれば、たった一体のリザードマンが低層階の生態系を変化させたのは驚きだ。
モンスターの世界にも弱肉強食があるんですね。
「ほら、言った通り魔晶石が消滅してるわ」
至る所に生えていた魔晶石が飽和するかのように消滅していっている。
その消える様は、儚き夢が散るかの如く美しかった。
「わぁ……綺麗です」
「うん、綺麗だ」
ノエルの考察は正しく、ここはリザードマンに生態系を変化させられていた低層階だったか。
てことはだよ?
低層階があるってことは、新人ハンターがこの街にもやってくるってことだよね?
やってくるってことは、みんなお金を使ってくれるってことだよね?
お金を使うってことは?
僕の領地の懐が潤って、領民も懐が潤うってこと!
いやぁ、僕は信じてましたよぉ〜
さっき愕然としていた?
それは誰かと見間違えたんじゃないかな?
お金落ちてないかなって下向いて歩いてただけだよ。
「そろそろこの辺りも暗くなるし、先を急ごう」
魔晶石で照らされていた一帯はジワジワと暗くなっていく。
時間も限られてるし行けるところまで行きたいってのが本音だ。
僕たちは再び歩みを進めた。
オールアナリシスで階層を分析しては、最短ルートで下の階層に降りていく。
気づけば、僕たちは10階層に到達していた。
当初の予想通り、このダンジョンは50階層相当で、10階層辺りでフロアボスが出てくると予想を踏んでいた。
10階層に辿り着くまでに目立った強さのモンスターは居なく、魔晶石も見つからない。
ノエルの言う通り、一階層目だけがリザードマンによって変化していた。
そして──今僕たちは、大きな扉の前に立っている。
「おそらく、この扉を開けて中に入れば、フロアボスだろう」
「ウィル様、今回は探索任務ですのでフロアボスと戦闘になるのは避けた方が宜しいかと」
「そうだね。あくまで探索だし無駄な戦闘を起こす理由もない。今日はこのまま引こうか」
どんなフロアボスが出てくるかは多方予想つくし、僕たちだったら余裕で倒せるのは目に見えてる。
ここのフロアボスを倒せば11階層からは中層になるだろう。
僕たちは踵を返して引き返そうとしたが、ノエルとニーナだけはその場に立ち止まった。
「どうしたの? 戻るよ」
「いえ──どんなフロアボスが出てくるのか気になります」
「探索任務なら、フロアボスがどんなものか確かめるのも仕事だわ」
二人ともいきなり血気盛んになってどうしちゃったの?
探索始めて暫く時間かかるし、今からダンジョンから出ても地上は夜だ。
夜は色んな意味で危ないし早く帰ることに越したことはない。
「今日はもう遅いし、帰った方がいい」
「ウィル様の言う通りです。ノエル、フロアボスがどんなのか興味が湧くのは結構だけど、それはまた今度にしなさい」
「それでもわたしは戦ってみたいです」
「ノエルッ!! いい加減に──」
「──アンジェラ、どうせならやらせよう」
「ウィル様ッ!!」
まぁいいじゃないの。
可憐な乙女二人がフロアボスに挑みたいって言ってるし、何より──僕もノエルがどれほどまで戦えるのか見てみたい。
それに、ニーナもどれくらい強くなったか気になるし。
「ただし──ノエルとニーナだけで挑むんだ。僕たち三人が加勢したら一瞬で終わっちゃうからね」
ノエルとニーナは顔を合わせて喜んだ。
「ウィル様ありがとうございます」
「ウィル、お母様、ありがとうございます。ニーナと力を合わせて頑張ります」
「いいんだよ。でも──危うくなったら介入するからね」
「シェナ的に介入する必要ないと思うけどね」
確かに──アスモデウスとの戦いに介入し、形勢を逆転して敗走まで追い詰めたノエルだ。
ニーナも無詠唱で雷魔法が使えるし、僕が介入する暇もないかも。
それでも二人の今の実力を見定める良い機会だ。
あとはどんな魔法が見られるのか楽しみだな!
僕たちはフロアボスの扉を開き中に入っていった──
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