嵐の後
それから数日間、ジーンの記憶はない。
海神殿に戻って医師の診察を受けると、ジーンの右手とあばらは折れていたらしい。らしいというのは、すでに気を失っていたからだ。陸にたどり着いて過ごし興奮から醒めると、急にひどい痛みに襲われて、気を失ってしまったのだ。
たまに目を覚ましても、熱と痛み止めの影響で朦朧としていた。
夢うつつの合間に、懐かしい顔を見た。
「ジーン。おい起きたのか」
「…リカルド?」
「あぁ。分かるか」
「…びっくりした。いっつもローラン様に付き従ってるのに」
「起きて言うのがそれかよ」
呆れた声。
「嘘。来てくれて、ありがとう。あれ、使えた?」
私が捕まったことで、ちゃんと神官の武器は発動できたのか。
「ああ。きっちり片付けた」
「そう……よかった……」
聞きたかったことを確認すると、また途端に眠気に襲われた。
また少し寝て。
熱さに唸る自分の額に、冷やした布を載せてくれる手があった。
「早く良くなって。私たち、ジーンさんがいないなんてもう考えられないんだから」
優しい手と声に、少しだけ体の強ばりがとけた。
「ジーン。ジーン。ジーン」
祈るような縋るような声。
あんなに不思議で、強力な力をもった人なのに、とおかしくなる。
ひょっとしたら、太陽神殿の大神官がふるう力よりも大きいかも知れない。
ふふ、と唇から笑い声が漏れる。
すると、頭上で息をのむような気配がして、それから額をそっと撫でられた。
何か言ってあげなくてはと思うのに、その温もりが心地よくて、またうとうとと眠ってしまった。
完全に目が覚めたとき、側にいたのはマリエだった。
目をまん丸にしてベッドサイドに立ち竦んでいるのが可笑しくて、笑ってしまったら、むせた。
「お、お水!」
差し出された水を動く方の手で受け取って、飲むと、見守っていた少女がほぅ、と安堵の息を漏らす。
「ありがとう。今、何時?」
しっかり目を合わせてしゃべったジーンに、マリエの目が潤んでいく。
「……十一時。あれから、三日経ってる……。待ってて、皆に、皆に知らせてくる!」




