対決の余波
ユーリオは宣言どおり、ジーンを守るつもりのようで、ジーンにはその日の夕食時に外出禁止令が言い渡された。また子ども達にも、当分の間、ジーンを絶対外に出さないことという指令が下された。
これは、ジーンだけでなく、指令という形で子ども達を神殿から出さないためだ。ジーンはそのことを事前に聞いていたので、とりあえず粛々と受け入れた。
ユーリオはまた、自らが漁に出ることを止めた。
決まった時間に神殿から男手がなくなるという状況は、危険だと判断してのことだ。
「それでも、安全とは言い難いけど」
漁に出ない分の時間を、ユーリオはジーンのそばで過ごすようになった。
自然、しばらく減っていた会話が増えた。
話題は大抵支部の動きについてで始まるが、そのうち孤児院のことやお互いのことになる。
「そういえば、ユーリオはどういうきっかけで子ども達を引き取りだしたの?」
「きっかけというか、最初はマリエだったんだけどさ」
ユーリオは、考え考え喋る。その間に、割とてきぱきと手が動くのが、意外に思えた。
「ちょうど父親が死んで、俺が一人になったばっかりのときだったんだよね。うちの神殿の墓地で、葬儀があったんだ。両親が流行病で一度に死んで、残された赤ん坊をどうするかって、親族がもめ出してさ」
淡々と語るが、まだその頃のユーリオは未成年だろう。愛する家族を失ったばかりのユーリオが、人の死を送るところを想像した。その前に、ユーリオは自分の父親の死も自らの手で送ったのだろうか。その想像は、ジーンの心臓に大量の針で刺されるような痛みを生じさせた。
「自分と重ねたんだろうな。ひとりぼっちで、籠の中でじっとこっちを見ていたマリエと目が合ったんだ。そうしたら、うちで面倒見ますって口から出てたんだよ」
「そうなの……」
「そ。それで、神殿に連れて戻ったら、バーナムが腰抜かしてさ。俺がどこかで悪さして、産ませたと思ったらしい」
「産まっ……?!」
思わず想像して真っ赤になったジーンを横目でくすくすと笑って、ユーリオは貝を磨いている。
「どんだけ信用ないんだよな。誤解が解けても、みんな返してこいって言うし。でも、どこに返すんだよ?押し付け合ってた親戚達のところで、愛してもらえるのか?……って俺が育てるって宣言したんだけど、もちろん赤ん坊なんか育てたことないから、結局ポリーとかブレンダとか、みんなが助けてくれて」
「うん」
「そのうち、マリエの噂が広まったのか、捨て子を見つけた町の人が、神殿に連れてくるようになって、あとはご覧のとおりだよ」
「全員ユーリオが拾ってきたのかと思ってた」
「まあ結局、うちの子にするって俺が決めたんだから、俺が拾ったのと同じだけどね」
家族がいない寂しさを知っているから、寄る辺ない子どもを見捨てられなかったのだろう。
「ユーリオは……」
ん?とユーリオが振り向く。
「ユーリオは、寂しがり屋だね」
途端、彼は不満顔になった
「えー。そこはさぁ、優しいのねとか頑張ったのねとか言うんじゃないの?」
ジーンは半眼で見返した。
「あぁなるほど。今までの彼女さん達の可愛い反応リストね」
「いや!そういうんじゃなくて!」
半眼になったジーンに、ユーリオが慌てて身を乗り出す。
「大体彼女とか言うけど、結婚前提みたいな真剣なお付き合い、したことないから!」
全力の否定に、ジーンは肩をすくめた。つまりそこまでいかないお相手はいろいろいたのだと。この辺りは前に街で少し耳にしたので、今さらでもある。
「まあ、それは置いておいて」
「いや置いておかないでよ」
ユーリオの突っ込みも放置する。
「みんなと家族になれて、よかったね」
ユーリオはまじまじとジーンを見つめた。
「うん……」
そのまま穴の開くほど見つめられて、さすがに居心地が悪くなる。
「あの、ほら、貝磨き、続けなくていいの?」
手が止まっていると指摘するが、ああ、と生返事が返ってきただけだった。
「あんたって、本当……」
「ごめんなさい」
異様な雰囲気に思わず謝ると、彼は笑って首を振った。
「いや、いいんだ。……むしろ、ありがとう」
「ど、どういたしまして?」
ふと、ユーリオがジーンの胸元を見て言った。
「それ、つけてくれてるんだ」
ジーンはあっとそれを抑えた。床掃除で前かがみになっていたためか、衿から首飾りが滑り出ていた。
「あ、その、マリエがちゃんと、返してくれたから」
何故か言い訳のように言ってしまう。
別に悪いことをしていたわけでもないのにと、ジーンは自分に戸惑う。ユーリオはやたらと顔を緩めていて、それもまた戸惑いに拍車をかける。
けれど、それからはたと気付いて赤面した。
「わた、私、えっと、水、くんでくる」
「ジーン?」
ユーリオに不審そうに呼び止められるが、構わず立ち上がる。
小走りに回廊を抜けて井戸へ。そこで雑巾も、バケツも放り出してしゃがみ込んだ。
「…………んだって、言った……」
両手で顔を抑えて、呟く。
聞き間違いでなければ、ユーリオは、つけてくれてるんだ、と言った。
ジーンに花貝を渡したのはジョシュだった。だからジーンとしては、花貝の意味も本当の贈り主も、さっきまでは知らないこととして振る舞っていたのだ。それを、ユーリオが自分が贈ったもののように言った。しかも、ジーンが身につけているのを見て、喜んでいた。
「……どんな顔して、会えばいいのよ……」




