閑話 太陽神殿の人々
同じ頃、エレナのその男の部屋には、煌々と灯りがついていた。
「タイリーは手こずっているようだね」
「はい。予想以上に敵が資金力を持っていたようです。シドを行かせますか?」
「リカルド、敵という言葉はよくないよ。そもそも対外的には、我々は一つの組織なんだし。……しかし、シドか。うん、タイリーにつけるにはちょうどいいね」
手元の地図に指を滑らせる。
「ベックの方は」
「昨日落としたと報告がありましたが、収束にはあと数日かかるかと」
「まあ、そんなところだろうね。リカルド、君は速すぎた」
「すみません。まさか仕事が速くて怒られるとは思わなかったもので」
リカルドと呼ばれ肩をすくめた男はまだ若い。細身ながらも逞しい体を黒衣に包んで、その肩には黒い鳥がのっている。
謝られた方の男は、人差し指をたて、ふふふと笑った。
「君の言うとおり、基本『兵は神速を尊ぶ』のだけどね。こういったことはね、タイミングが肝心なんだよ」
「はぁ」
「つまり、一度に叩けば、逃げ込む先がなくなるし、勘づいて体制を整えさせることもないでしょう。」
この言葉に、若い男が首を傾げた。
「あの、それなら……なぜ、アイツには時期を指定しなかったんですか?それどころか本当の任務すら知らせていないじゃないですか」
アイツ、と言ったのが誰のことであるかは、問い返されなかった。
「今さらだねぇ。あそこは辺境だから他の支部と連携されにくいでしょう?まぁ、もう一つは、他にもあの子自身に見極めてほしいことがあるというか、ね」
「なんですかそれ。この計画よりも重要なことがあるんですか?」
成功すれば、太陽神殿を二分する派閥の争いを終わらせられる。そうすれば、近年目立っていた他の神を軽視する動きや行き過ぎた神官優遇のための予算の流れなども変えることが出来る。
それは、彼らの長年の願いであった。そして、後輩達のためにも、他の神殿のためにも、為さねばならぬことであった。
それなのに、ここに来て不確実な要素を残そうとする上司が、若者には理解できなかった。
「ジーンがしくじったらどうするんですか」
若干せめるような声になったが、窘めることもされなかった。
「そもそもジーンが動くことを期待しているわけじゃないんだよ」
ふふ、と笑って、彼はそれ以上何も語らなかった。




