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疑惑八、その神殿は隠しごとをしていますか。

「バザーは二月に一度よ」

「神殿で作ったお菓子や、お守りを売るの」

「へぇぇ」

ジーンにとっては初めて見る行事だ。

幼い子ども達の午睡時間、食堂に、紐やら貝やら布やらが広げられている。

ジーンはぴかぴか光る貝を摘まんで眺めた。白と茶の縞模様のそれは花貝とは色合いが違うが、つるりと艶があり、美しい。年かさの神官がよく貝を磨いているのは見ていたが、それがお守りに使われるとは知らなかった。

「とってもきれい」

「でしょう?それにね、ここのお守りは、水の加護があるから人気なの。遠くの町からも年に一度買いに来るって人がいるんだから」

ポリーが誇らしげに言う。

荒い麻紐が編まれた中に、きれいに磨かれた貝や波で角の取れた石などがはめ込まれている。装飾品には詳しくないジーンだが、これは身につけてもきれいだと素直に思える出来だった。

「ジーンのいたところにはなかった?」

「バザーはありませんでした。お守りは……そうだなぁ、お札や聖水ならお渡ししていましたけど」

お札に使う木片は、孤児院で飽きるほど作った。それを神官たちが祈祷して、希望者に分け与える。受け取った者は代金を払う必要はないが、信仰心を寄付という形で示す。

「善意の寄付という名の金集めだな」

バーナムが気に食わないことを隠しもせず言った。あちらから関わってくることなどここ最近なかったことだ。腹立ちよりも意外な気持ちで見れば、どこか落ち着かない顔をしている。

「太陽神殿みたいに大きな組織の大元だと、必要な資金だってうちの比じゃないだろうな」

「そうですね。本部は王家を始めとした貴族などからも寄付を受けて、それを各地の支部に配分しなくてはなりませんから」

さらりと流したユーリオに、ジーンもエレナでの寄付集めを思い出して続いた。

「その金集めの邪魔になる地方の神殿を妨害するというわけだ」

またしても攻撃的なことを言うバーナムを、すかさずユーリオが止める。

「バーナム!いい加減にしろ」

「本当よ。いやねぇ堅物は!ジーンさん、あっちで紐を編むのを手伝ってちょうだい」

みんな空気を変えようと動き出す。

ジーンも頷いて立ち上がりつつ、ちらりとユーリオの方を見た。

こちらを向いていたと思ったのだが、見えたのは亜麻色の髪だけだった。

こんなことが、数日前からずっと続いている。

確かに視線を感じるのに、目が合うか合わないかで逸らされる。おかげであの晩運ばれたときを最後に、ジーンは彼と会話をしていない。一つの輪に交ざって話はしても、ジーン個人には決して話しかけない。かと思えば、食事は相変わらず山盛りにしようとするし、先程バーナムがとげとげしい態度をとれば、すかさずフォローを入れてきた。

「ジーンさん、ここね」

ぼんやりしてしまった。ジーンは、キャロルが隣に呼んでくれるのに笑顔を返して、女性陣の輪に加わる。

「バーナムがごめんなさいね。あのバカ息子、本当に石頭で」

椅子をひくなりブレンダから謝られ、ジーンは驚いた。

「え?……息子?バーナムさんって、ブレンダさんのお子さんなんですか?!」

ブレンダが、片頬に手を当てて頷く。

「本当に、お恥ずかしい限りよ。夫も、『アレに副神官長任せて引退したのは時期尚早だった』って言い出しているわ。あ、この紐をこれと同じ長さに切ってね」

道具を受け取りつつブレンダを見れば、確かに口の脇や目の際には細かなしわが寄っており、成人した息子がいても決しておかしくはない。目の色も、骨太そうながっしりしたところも似ている。しかし、

「バーナムさんって……まだお若かったんですね」

「あ、やっぱり結構年だと思ってたんだ。実は、あれでもまだ三十才になったばかりなのよ」

キャロルが声を潜めて教えてくれる。

「小さいころから私と夫にくっついてここに住んでいたから、ユーリオのことを弟みたいに思っているのよね。それで、やたらと心配するの」

今は老いを理由に街から通いで神殿の仕事をしているブレンダ夫妻だが、以前は一家で住み込んでいたという。

「ジーンさんに厳しいのも、半分は支部との今までの関係のせいだけど、半分は舅根性なのよ」

ごめんなさいね、とポリーにまで謝られて、ジーンはいえいえと小さく両手を振った。

「厳しいといっても、お話自体あまりしませんし。むしろ、今日はなんだか……バザーがよほど心配なんでしょうか?」

順に見つめるが、目が合うと皆ぎくしゃくと笑うだけで、答えなかった。

「えぇと……そんなことないわよ。大丈夫」

「そうね、さあ、準備しちゃいましょう」

その反応で、悟る。

バーナムの様子がいつもと違うように思われたのは、気のせいではないのだと。

思えば、初日を除けば、バーナムは基本的にジーンの存在を無視している。そのバーナムが絡んで来たのは、先日の集会のときと、今回のバザーに関してだ。それは、ジーンを太陽神殿の人間と見て、神殿の大事な行事を妨害されまいかと牽制してのことだろう。

教えられるとおりに紐の長さを整えながら、ジーンは今後の行動を計画した。


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