疑惑七、の決着
「ユーリオはね、とっても優しいの。私やミンミが風の音を怖がって泣いていたら、来てくれてね。一緒のお布団で寝てくれたんだから」
「そうなの…?」
「そうよ、それからね、バザーではね、ユーリオが売り子になるとあっという間にぜーんぶ売り切れちゃうんだから。詐欺師みたいに口がうまいの!」
「それは……褒めてるんだよね?それで、あの、マリエ。これは一体どういう状況……?」
ただいまジーンはベットの上にいる。
ついさっき、長い夢から覚めたところ、目の前に赤毛の少女がいた。叫ばなかったのは、我ながらうまくやったとジーンは思っている。そしてそのままマリエによる徹底看護が始まった。
マリエは今、ベッドの横に動かした椅子に座っている。ジーンに朝ごはんを運んできて、そのまま唐突にしゃべり出したのだ。
今ほどのジーンの質問にも、歯切れよく答えが返ってきた。
「決まってるでしょ、ウリコミよ」
「へ、へえ?」
それは、ユーリオの、ととればよいのだろうか。
なんと答えたものかと思案して、とりあえずジーンはお盆の上のおかゆと少女を見比べた。湯気の立った乳白色のおかゆは、浅い皿の縁近くまでたっぷりと注がれている。小柄な少女がこぼさず運んで来るのは、大変だったろう。売り込みを制止された彼女は手持ち無沙汰なのか、布巾を折ったり伸ばしたりしながらも、席を立とうとはしない。
「……ご飯をありがとう」
マリエの手がぴくりと震えた。好き勝手にふるまっているようで、ひどく緊張しているのだと、ジーンは思った。
「おいしい」
安心させてやりたいと思ってそう微笑めば、ちらり、と茶色の目がこちらをうかがう。
「……決めたの」
ぼそりと小さな口が呟いた。
「何を?」
「絶対、ユーリオと結婚したいって言わせるの」
ジーンはぼとっとスプーンを落とした。
それから我に返って慌てて拾ってトレイに置く。
「え?」
「ユーリオに聞いたの。ジーンはまだ、せいしきには婚約者こうほなんだって。それって、本当には決まってないってことだって。それで私、昨日のことのせいでジーンが帰っちゃっても仕方ないんだって、思って」
おそらくユーリオは、ジーンに対してマリエが神経質になりすぎないようにと伝えたのだろう。けれども賢い少女は、別の方向に考えを巡らせたようだ。
「えっと……昨日のことは、もうあれで終わりだからね。私ももう気にしてないよ?」
一応彼女の罪悪感を慮って、否定しておく。しかし、ジーンが帰ったとしても、それはマリエにとっては好都合のはずではないのか。それがなぜ、売り込みにつながるのか。
「私、ユーリオと私たちを置いていかない人が欲しい。ジーンが欲しい。だから、だから、私……ごめんなさい」
最後の方は本当に小さな声で、それでも波に紛れることなく聞こえた。
「私こそ、ごめんなさい」
ジーンの声もまた、かすれて風にかき消されそうなものだった。
「えっと、だからその、覚悟しなさいよねッ」
拳を突きつけ宣言されて、ジーンはたいそう戸惑った。
けれど、その手がジーンの手のひらにぐっと押し付けたものを見て、目を見開いた。むしろ輝かせてしまったと言った方が正しい。
ばたばたと走り去る足音を聞きながら、ジーンは、それを指先でそっと撫でた。桜色の小さな貝は、ジーンの手の中で、昨日と変わらず美しく輝いていた。




