疑惑七、その子どもたちは悪事に利用されていますか
「出来た、と」
ジーンは重ねた紙をとんとんと揃えた。
ようやく孤児院設置の申請書が書き上がった。気付けば子ども達の午睡が終わろうかという時間になっていた。
まだ原案なので、これからユーリオや他の神官に目を通してもらい、改良していく必要がある。しかしそこで、あいにくユーリオとバーナムが神官長会議に出ており、そろって不在だったことを思い出した。
それで、思いついて私信を一通したためることにした。
――拝啓、ローラン様におかれましては、ご健勝でいつもどおり鬼神の如くご活躍のことと存じ上げます。
少しふざけていると思われるだろうか、とちょっとペンを持ち上げて考えたが、ジーンの上司なら、笑いはしても怒ることは無いと気を取り直す。
――私ジーンは、海神殿の査察を鋭意継続中です。前回も伺いましたが、婚約者候補などというおかしな肩書きは、懐に入り込むためのローラン様の奇策ですよね。この点、きちんとご回答下さい。
ユーリオ・リトナの女性関係、隠し子関係の査察は別便でお知らせしたとおりです。密告の犯人を確定すれば、この任務は完遂かと思われます。ただし可能ならば、進行中の孤児院の手続きを終えて晴れ晴れと帰還したいところです。
ところで先日、この地方の太陽神殿支部と海神殿の関係が良くないことを耳にしました。そして、原典派と神官派の派閥についても。私はローラン様のお役に立つため、出世して女性初の文官長の座につくことを志して参りました。けれど、これほどまでに不明だったことを知り、自分を恥じております。私は、まだまだローラン様のご信頼をいただくに足る人間ではなかったのでしょうか。早く帰還して一人前になりたいと願う日々です。そして出世を重ね、必ずや女性初の文官長になります。
ここまで書いてまた、ジーンはペン軸の上部を唇に当てて止まった。
それから今度は、二枚目……『私はまだまだ』からを破いて書き直す。
――ローラン様のお役に立てるよう、日々精進いたします。敬具
読み返して、一つ頷く。
神殿内を経由せず届くよう、上司の秘書を務めている自分の友人縁の家を宛先に書いて封筒に入れた。
明日にでも町に出て配達の手筈を頼もうと、それを引き出しに入れる。
「うぅ…、ふえぇん…うえぇぇん」
食事の準備を手伝いに厨房に向かう途中、泣き声が聞こえた。
海に面した広い裏庭で、ミンミが泣いている。それを数人の子どもたちが宥めようとしているようだ。
「どうしたの?」
「ジーンさん」
子どもたちが、気まずげに目をそらしたので、ジーンはことが自分に関係するのだと悟った。
もう一度ゆっくりと子どもたちを見渡すが、やはり目を合わせるものはいなかった。
「ミンミ。どうしたの?」
ミンミの泣き声がことさら大きくなる。顔が真っ赤で、体中がばらばらになってしまうのではないかというくらい、激しく身を震わせている。
ジーンは心配になって、ミンミの背中に両手を回して抱きしめた。
「大丈夫。大丈夫だから。何が悲しいのか、言ってごらん?」
「ジ、ぃンの、…たの。だいじ、ねって、のに、」
「うん」
嗚咽の合間に漏れる声は、なかなか言葉にならない。それを、背中をさすりながら待つ。
「なく、なくなっちゃ、た!ごめ、ジィン、ごめ、ん!」
ミンミがまた盛大に泣き出した。ジーンは小さな体を抱え上げた。
大体のことは分かった。なくしてごめんと言うのだから、それは昼間に貸したあのネックレスのことなのだろう。
咄嗟に声が出なかった自分に、ジーンは驚いていた。自分がこれほどショックを受けるとは、予想外だった。泣きじゃくるミンミを慰める言葉が出てこずに、ジーンは未だミンミを抱きしめるしかない。
「…マリエだよ」
顔を上げると、ジョシュが拳を握り締めてこちらを見ていた。
「マリエが、ミンミから強引に借りて、無くしてきたんだ。あいつ、ジーンがユーリオから花貝もらって、うらやましかったんだ」
ジョシュは苦い野菜を食べたときのような顔だ。
そんな顔を、子どもはしては駄目だ。ジーンは幼い頃、神官にそう言われたのを思い出した。それで、唇の端を持ち上げて見せる。
「……ありがとう、ジョシュ。でも、想像で決めつけちゃだめだよ」
「だって!」
「だってでもなんでも。ほら、大丈夫だから。私がマリエに直接聞いてくる」




