証拠は?
東京のおじさんは、すぐに電話に出てくれた。
「ゆみちゃん!どう?奈良県は。もう慣れたの」
「おじさん、お久しぶりです。はい、慣れました」
私はすぐに本題に入った。
これまでのことを説明する。
「何だか虐待のような気がして…」
「うん、それは東京だったら即アウトだね。そこの園は監視カメラはついてるの?」
「つい、てたと思う。」
「じゃあすぐに通報するんだ。それも大事な仕事だよ。」
「でも、通報したら私、あれこれ大変なことになりそうで」
「いいじゃないか。大変だって。子どもたちが悲しい思いをするよりはマシさ。というか匿名で通報もできるはずだよ」
私は、電話を切ったあと、すぐに検索をした。
そして、匿名で通報できる公的なサイトを発見し、すぐに文章を打って、匿名で送信した。
が、1ヶ月たっても、2ヶ月たっても何も変わることはなかった。
そして、また目の前で嫌なことが起きてしまった。
ーーーー
「あんた、頭使って食べてる?できないんやったら立っとき。」
子どもたちの名前を徐々に覚え出した頃。
その事件は起きた。
指摘された子は発達療育に通う男の子で、指先の力が弱くお箸を持つことが難しい。
でもこの園では、お箸は自分の家から持ってきたものではなく、園のものを使う。エジソン箸や握りやすいスプーンやフォークを使うことは許されていない。
かと言って、お箸の使い方を練習する日があるかと言えば、ない。
体幹が弱いから、椅子からも崩れる。椅子のパイプを先生が蹴る。揺れる。お箸が落ちた。その時放たれた言葉が、それだった。
「あ、落ちた」
男の子、タイラ君は、一瞬悲しそうな顔をして、そして先生に立っときと言われて、泣き出した。
「た、食べるっまだお腹すいてます」
「あんったもう年長さんやろー!?そんなんで、どないすんねん!もう友達でけへんねー」
心臓がぎゅっと痛む。
行政は何をしているんだ。私の通報はどうなった?なぜ何も変わらないの?
私はいても立ってもいられなくなって、席をたった。
「落ちちゃったね。洗いに行こうか」
「武田先生、座っとき。これは指導や」
「いえ、もう食べ終わったので大丈夫です。」
会話になっていなかったが、それでも良かった。私はタイラくんの手を引いて、お部屋の外にある洗面台に向かう。
ポロポロと落ちる涙。
「せんせ、ぼく、来年、一年生、友達できないね?」
その言葉を聞いた瞬間、あ、もうだめだと思った。
「できるよ。大丈夫。」
その日の帰り。
私は意を決して、園長先生に直談判しに行った。
初日に殴っているのをみたこと。
靴を蹴っている人がいること。
子どもに対して暴言を吐く先生がいること。
他にもたくさんあった。
給食を食べるときに椅子が足りなくて泣いている児童がいる。
遅いとおかずが少なくなってしまう。
一気に配った方がいいのではないか。
延長はニコニコしながら聞いていた。
そして言われたのが、この言葉だった。
「証拠は?」
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