【第17章‑6】 永禄の変と畿内の揺れ
久秀が三好家の“座”に就いてから、
半年ほどが過ぎていた。
永禄七年の冬、
畿内は一時的に静けさを取り戻した。
寺社は徴発の乱れを抑え、
豪商も取引を再開し、
三好家の政もようやく回り始めていた。
だが──
その静けさは、
春の風のように儚かった。
永禄八年五月。
京から、
ひとつの報せが駆け込んだ。
――将軍義輝、
三好三人衆に討たる。
その言葉は、
畿内の空気を一瞬で変えた。
三好館の廊下では、
家臣たちが声を潜めて囁き合った。
「……本当に、討たれたのか。」
「京は、どうなる。」
「畿内は、どう動く。」
兄弟衆は、
誰も表に出てこなかった。
義輝を討ったのは三人衆。
だが、
その三人衆は三好家の名を背負っている。
つまり──
三好家全体が“将軍殺し”の烙印を押された。
京は混乱し、
公家は逃げ、
寺社は沈黙し、
畿内の国人たちは
それぞれの陣へ引きこもった。
堺の商人は、
三好家との取引を再び絞った。
大和の寺社は、
僧兵の動員を“検討”から“準備”へと変えた。
畿内の空気は、
静かに、しかし確実に
三好家から離れ始めていた。
久秀は、
その流れを冷静に見ていた。
(……三人衆は、
自らの手で三好家の地盤を崩した。)
だが、
責める気はなかった。
三人衆は、
三人衆なりに
“生き残るための手”を打っただけだ。
問題は──
その手が、
畿内全体を揺らすほどの重さを持っていたこと。
永禄の変の報せは、
畿内の空気を一変させた。
寺社は沈黙し、
豪商は取引を絞り、
国人衆はそれぞれの陣へ引きこもった。
畿内は、
静かに、しかし確実に
揺れ始めていた。
久秀は、
その揺れの中心に
自らが立たされつつあることを
静かに感じていた。
(……この揺れは、
どこへ向かう。)
その答えは、
まだ誰にも見えていなかった。




