【第17章‑4】 武力の示威と四郎次郎の最後通告
豪商の資金が止まってから、
まだ三日しか経っていなかった。
だが、
次に動いたのは、
寺社の“武力”だった。
その朝、
奈良坂の道に、
僧兵の列が現れた。
槍を持ち、
甲冑を着け、
無言のまま整然と歩く。
戦うためではない。
見せるためだった。
その列は、
三好館の近くまで来ると、
ゆっくりと止まった。
声は上げない。
旗も振らない。
ただ、
そこに“いる”だけだった。
だが、
その沈黙こそが、
最も重かった。
三好館の家臣たちは、
顔を青ざめさせた。
「……なぜ、僧兵が。」
「示威だ。
寺社が本気で怒っておる。」
「このままでは、
年貢も兵も止まるぞ……!」
兄弟衆は、
ついに動揺を隠せなくなった。
「誰か、寺社と話せる者はおらぬのか!」
「久秀を呼べ!」
「いや、あやつは外様だ!」
「外様でも構わぬ!
このままでは三好家が潰れる!」
その声は、
もはや混乱そのものだった。
その頃、
久秀は四郎次郎の屋敷にいた。
四郎次郎は、
庭の方を向いたまま、
静かに言った。
「僧兵の列、
三好館の前にて止まったと聞いており申す。」
久秀は、
わずかに眉を動かした。
「……早い。」
「早うござる。
寺社は、
三好家を“交渉相手として認めぬ”という
意思を示したのでござりましょう。」
四郎次郎は、
机の上に置かれた文を指で押さえた。
「寺社方より、
三好家への支援、
すべて停止とのことにござる。」
その声は、
淡々としていた。
「年貢も兵も、
一切お出しできぬ。
僧兵の動員も、
すでに手配済みにござる。」
久秀は、
静かに息を吐いた。
四郎次郎は、
続けた。
「堺の商人衆も、
本日中に貸し付けの返済を求めておりまする。
応じられぬ場合、
以後の取引はすべて停止となり申す。」
その言葉は、
刃よりも冷たかった。
「米も鉄も、
明日より一粒、一挺たりとも回りませぬ。
軍も政も、
これで止まり申す。」
久秀は、
その言葉の重さを理解していた。
四郎次郎は、
久秀の方へ向き直った。
「久秀殿をお立てにならぬのであれば、
寺社も豪商も、
三好家との縁を切らせて頂きまする。」
その声音は、
礼儀正しく、
しかし逃げ場がなかった。
「このままでは、
畿内の商いがすべて死にまする。
その責は、
三好家にてお取り頂くことになりまする。」
久秀は、
静かに目を閉じた。
四郎次郎は、
最後の一言を置いた。
「ご返答は、
ただいま頂戴致しまする。
遅れれば、
その時点で三好家の終わりにござる。」
久秀は、
深く頭を下げた。
久秀は、
四郎次郎の屋敷を辞し、
三好館の近習詰所へ戻った。
詰所の戸を開けた瞬間、
使いが駆け込んできた。
「久秀殿!
十河様より、
至急お越しくだされとのことでございます!」
使いの声は震えていた。
三好家が、
ついに膝をついた。
そして、
その膝が向いた先は──
久秀だった。
久秀は、
静かに立ち上がった。
(……座が、動く。)




