表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
88/141

【第17章‑3】 豪商の資金封鎖

寺社が動いたと聞いてから、

まだ数日しか経っていなかった。

だが、

次に動いたのは、

やはり堺だった。

その朝、

三好館の門前に堺の使者が現れた。

しかし、使者は門をくぐらなかった。

文を番兵に預けると、

一礼だけして静かに引き返した。

その様子を見ていた家臣が、

慌てて兄弟衆の部屋へ駆け込んだ。

「堺よりの使者、

館に入らず戻りました!」

兄弟衆は顔を見合わせた。

「……なぜだ。」

「文を置いていったのみだ。」

文は短かった。

――三好家への貸し付け、

返済の期日を改めて確認したく候。

至急の返答を求む。

それだけだった。

だが、

その一文が意味するものは、

誰の目にも明らかだった。

「……返済の催促か。」

「この時期に、か。」

「いや、これは催促ではない。

“揺さぶり”だ。」

兄弟衆の声は、

次第に荒くなっていった。

堺の豪商たちは、

三好家の軍事行動を支える

金と物資の源だった。

その堺が、

“距離を取る”という意思を示した。

翌日、

近江の商人から文が届いた。

――以後の取引、

しばし見合わせたく候。

さらにその翌日、

大和の商人からも同じ文が届いた。

三好館の空気は、

一気に濁った。

「なぜだ。

なぜこの時期に、

揃って取引を止める。」

「寺社の文と同じ頃だぞ。」

「まさか、

裏で誰かが……」

その言葉は、

最後まで言われなかった。

だが、

誰もが同じ名を思い浮かべていた。

茶屋四郎次郎。

寺社の財政を握り、

豪商の利を調整し、

武家の兵站を支配できる男。

三好家にとって、

逆らえぬ相手。

その頃、

久秀は三好館の近習詰所にいた。

詰所の戸口に、

ひとりの使いが姿を見せた。

四郎次郎の屋敷からの使いだった。

「久秀様。

四郎次郎様より、

お屋敷にてお待ち申し上げますとのことでございます。」

久秀は、

静かに立ち上がった。

四郎次郎の屋敷では、

机の上に三通の文が並べられていた。

堺。

近江。

大和。

どれも、

三好家との取引停止を告げる文だった。

「……早いな。」

久秀がつぶやくと、

四郎次郎は淡々と答えた。

「早うござる。

寺社が動けば、

豪商も動き申す。

利を守るために。」

「三好家は、

どう動く。」

「動けませぬ。」

四郎次郎は、

静かに文を指で押さえた。

「金が止まれば、

兵も動かず、

政も回らず、

寺社への支払いも滞り申す。

このままでは、

三好家は立ちいかぬ。」

久秀は、

文を見つめた。

豪商の資金封鎖は、

寺社の圧力とは違う。

もっと静かで、

もっと冷酷で、

もっと確実だった。

「……三好家は、

誰に助けを求める。」

久秀の問いに、

四郎次郎は目を細めた。

「久秀殿にござる。」

その声は、

淡々としていた。

「寺社も豪商も、

交渉相手として認めるのは

久秀殿のみ。

兄弟衆が出てこられても、

席はございませぬ。」

久秀は、

静かに息を吐いた。

寺社の圧力。

豪商の封鎖。

三好家は、

外側から締め上げられつつあった。

(……ここで、

座が動く。)

久秀は、

そう感じた。

その日の夕刻、

三好館の近習詰所に、

兄弟衆の使いが駆け込んだ。

「久秀殿!

兄弟衆より、

至急の御呼び出しにござる!」

使いの顔には、

焦りが滲んでいた。

三好家が、

ついに動いた。

だがそれは、

自らの意思ではない。

寺社と豪商に追い詰められ、

“久秀を呼ぶしかない”ところまで

追い込まれた結果だった。

久秀は、

静かに立ち上がった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ