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【第17章‑2】 寺社の圧力

長慶の死から一か月半。

三好家の内部で生まれた小さな亀裂は、

ついに外へと滲み出し始めた。

最初に動いたのは、

寺社だった。

興福寺からの使者が、

三好館に静かに姿を見せたのは、

ある朝のことだった。

使者は、

兄弟衆の誰にも頭を下げなかった。

ただ文を差し出し、

淡々と告げた。

「年貢の乱れ、

もはや看過できぬとのことにござる。」

その声は、

怒りを含んでいなかった。

だからこそ、

重かった。

文には、

こう記されていた。

――寺領への無断の徴発、増加。

――兵の通行、度を越す。

――このまま続けば、

年貢の停止もやむなし。

兄弟衆は、

その文を前にして言葉を失った。

「……誰が、勝手に徴発を?」

「知らぬ。わしではない。」

「では、誰が動かしておるのだ。」

互いを疑う声が、

小さく、しかし確実に広がった。

その日のうちに、

東大寺からも文が届いた。

内容は、

ほとんど同じだった。

「僧兵の動員、

すでに検討に入っておるとのこと。」

その一文が、

三好館の空気を一変させた。

僧兵が動けば、

畿内の交通は止まる。

兵站も止まる。

商いも止まる。

三好家の軍は、

一歩も動けなくなる。

兄弟衆は、

ようやく事の重大さに気づいた。

だが、

誰も動けなかった。

動けば、

“誰が三好家を動かしているのか”

その答えを示すことになる。

動かねば、

寺社が動く。

どちらを選んでも、

三好家は傷を負う。

その頃、

久秀は四郎次郎の屋敷にいた。

四郎次郎は、

文を一通、久秀の前に置いた。

「興福寺よりの文にござる。」

久秀は静かに目を通した。

「……早いな。」

「早うござる。

寺社は、三好家の乱れを

“見逃す気はない”ということでござりましょう。」

四郎次郎の声は、

淡々としていた。

「寺社は、

誰と話すつもりだ。」

久秀の問いに、

四郎次郎はわずかに目を細めた。

「三好家ではござりませぬ。

寺社が求めておるのは、

“話が通じる者”にござる。」

「……私か。」

「左様。」

四郎次郎は、

静かに頷いた。

「寺社は、

三好家を相手にする気はござらぬ。

このままでは、

年貢も兵も止まり申す。」

久秀は、

文を閉じた。

寺社が動いたということは、

畿内の均衡が

“外側から崩れ始めた”ということ。

三好家の内部の乱れは、

もはや隠せない。

(……ここから、

流れが変わる。)

久秀は、

そう感じた。

その日の夕刻、

興福寺から正式な使者が

久秀のもとを訪れた。

「久秀殿。

寺社方より、

内々にお話があるとのこと。」

その声は、

三好館の濁った空気とは違い、

澄んでいた。

久秀は、

静かに頷いた。

寺社の圧力は、

まだ“始まり”にすぎなかった。


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