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【第15章‑4】 二人だけの闘茶

離れの小座敷は、

外の闘茶の熱とは別世界のように静かだった。

炉の火が柔らかく揺れ、

湯の沸く音だけが部屋を満たしている。

四郎次郎は、

四つの茶入を並べた。

「久秀様。

今度は、

お二人で闘茶をしてみましょう。

四つの茶を点てます。

どれがどれか、

当ててみてください。」

久秀は頷き、

炉の前に座った。

四郎次郎は、

手際よく湯を汲み、

四つの茶を順に点てていく。

その動きは、

昼間の講義と同じく、

無駄がなく静かだった。

久秀は、

一つずつ香りを聞いた。

一つ目は柔らかく、

二つ目は火が強い。

三つ目は草の香りが深く、

四つ目はわずかに甘い。

久秀は、

しばらく考えた。

「……こうだね。」

四郎次郎は、

茶碗を確認し、

静かに頷いた。

「四つのうち、

二つ正解どす。

初めてにしては、

なかなかのものどす。」

久秀は、

少し笑った。

「やはり、

なかなか難しいものだね。

香りは思った以上に繊細だ。」

「ええ。

闘茶は、

香りの理を読む遊びどす。」

四郎次郎は、

次の茶碗を片づけながら言った。

久秀は、

その動きを静かに見つめていた。

やがて、

ふとした調子で言った。

「……闘茶というのは、

名物を狩り集めるには、

なかなか都合のいい仕組みだね。」

四郎次郎の手が、

わずかに止まった。

久秀は続けた。

声の調子は変わらない。

ただの感想のように。

「負けた者は、

名物を手放す。

勝った者は、

それを手に入れる。

金も動く。

名も動く。

都の者たちは、

よく考えたものだ。」

四郎次郎は、

茶筅を持つ手をゆっくりと下ろした。

久秀は、

その反応に気づかぬふりをして、

さらに言った。

「もちろん……

長慶様もご存じのことだとは思うが。」

その一言で、

四郎次郎の目が変わった。

驚き。

警戒。

そして、

わずかな敬意。

「……久秀様。

どこまで、

見ておられます。」

久秀は、

茶碗を置き、

静かに答えた。

「見ているわけではないよ。

ただ、

そういう流れがあるのだろうと、

思っただけだ。」

四郎次郎は、

しばらく久秀を見つめていた。

その目は、

昼間の“教える者”の目ではない。

“見極める者”の目だった。

やがて、

小さく息を吐いた。

「……なるほど。

久秀様は、

香りよりも、

流れを読まはる。」

久秀は、

その言葉の意味を測りかねた。

四郎次郎は、

茶碗を片づけながら言った。

「今日は、

これでよろしゅうございます。」

その声には、

昼間にはなかった

“何かを悟った響き”があった。

久秀は、

その響きの正体をまだ知らない。

ただ、

四郎次郎の目が、

先ほどよりも深く、

静かに自分を見ていることだけは感じていた。


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