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【第15章‑2】 闘茶の熱──下層の賭場

夕刻の都は、

昼の静けさとは別の匂いを帯びていた。

人の声が重なり、

灯籠の火が揺れ、

どこかで盃の音が響く。

四郎次郎に案内され、

久秀は細い路地を進んでいった。

道の両脇には、

茶屋とも酒場ともつかぬ店が並び、

人々の影が行き交っている。

「この先どす。」

四郎次郎が言うと、

路地の奥に、

ひときわ大きな屋敷が見えた。

外観は質素だが、

入口に立つ男たちの目は鋭い。

ただの茶会ではないことが、

空気だけでわかる。

戸が開くと、

中から熱が流れ出た。

茶の香りではない。

人の熱。

金の熱。

欲の熱。

久秀は思わず足を止めた。

「……ここが、闘茶の座。」

四郎次郎は静かに頷いた。

「ええ。

都の人々が、

香りに夢中になる場所どす。」

だが、

その“夢中”は、

香りだけではないことが、

一歩踏み入れた瞬間にわかった。

盃が鳴る音。

札が擦れる音。

金子が積まれる乾いた響き。

笑い声と、

押し殺した呻き声。

茶の席というより、

賭場の熱が渦巻いていた。

中央の席では、

町人らしき男が顔を紅潮させ、

「次は倍にする!」

と叫んでいる。

その隣で、

地侍が腕を組み、

静かに茶碗を見つめていた。

僧侶が札を握りしめ、

商人が冷静に勝ちを拾っていく。

四郎次郎は、

その光景を淡々と見ていた。

「都ではな、

香りよりも、

人の熱のほうが強うございます。」

久秀は、

茶の香りよりも、

人の息の熱さを感じていた。

茶碗が回り、

湯気が立ち、

香りが漂う。

だが、

その香りは、

人々の欲の中にかき消されていく。

「当てた! 当てたぞ!」

勝者の声が上がる。

その瞬間、

周囲の者たちが一斉に札を積む。

勝った者は気が大きくなり、

さらに賭ける。

「……もう一度だ。

今度こそ取り返す。」

負けた者は、

震える手で金子を差し出す。

それでも足りず、

仲間に借りようと袖を引く者もいる。

四郎次郎が小声で言う。

「ここは、

金子と札だけが動く場所どす。

身分も、家の名も、

ここでは関係ありません。」

久秀は、

その言葉を胸の奥で転がした。

金子と札。

それだけで人が熱を帯びる。

だが、

その熱の奥に、

別の流れがあるような気がした。

四郎次郎は、

久秀の横顔をちらりと見た。

「久秀様。

闘茶は、

香りの遊びどす。」

その声は穏やかで、

この場の熱とは

まるで別の温度を持っていた。

久秀は、

その言葉を静かに受け止めた。

香りの遊び。

だが、

人々の熱は、

香りだけでは説明できない。

ただ、

この場の熱の奥に、

もっと大きな“何か”があるような気がした。

それが何かは、

まだわからない。


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