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第一部 価値の源泉 第一章 堺の豪商 松永家 【第1章‑1】 堺の朝

堺の朝は、海の光で始まった。

東の空が明るくなると、港に薄い金色が広がった。

唐船の帆柱が並び、潮の匂いが町に流れた。

商人たちが動き始めた。

荷を運ぶ声が響き、店の戸が開いた。

香の匂いが、潮の匂いに混ざった。

松永家は、その港に近い場所にあった。

堺でも名の知れた大きな商家だった。

朝になると、家の前を多くの人が行き交った。

松永家には四人の男の子がいた。

長男は家督を継ぐために厳しく育てられた。

次男は商売の現場を任されていた。

三男は分家の準備に追われていた。

四男の久秀だけが、家の流れから外れていた。

朝の忙しさの中でも、久秀の姿は見えなかった。

彼は、家の奥にいることが多かった。

久秀を育てたのは祖母だった。

祖母は松永家の中興の祖と呼ばれた人物だった。

堺の町衆にも名が通っていた。

朝の光が家の中に差し込むころ、

祖母は久秀を呼んだ。

「おいで。今日は名物を見せよう。」

久秀は静かに立ち上がった。

外の喧騒とは違う、家の奥の世界へ向かった。

堺の朝の光は、久秀の幼い日々を照らしていた。


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