【第11章‑5】長慶の「揺れない者」への違和感
茶室を出ると、
庭の砂が夕方の光を受けて白く見えた。
長慶はしばらく歩き、
縁側の端で立ち止まった。
風が吹くたび、
庭木の葉がわずかに揺れる。
その揺れを、
長慶は黙って見ていた。
久秀は後ろに控え、
主の呼吸が整うのを待った。
やがて長慶は、
庭の一点を見つめたまま言った。
「……揺れぬ者というのは、
どうにも気味が悪い。」
久秀は言葉を返さず、
ただ耳を傾けた。
長慶は続けた。
「何を見ても、
何を聞いても、
眉ひとつ動かぬ者がいる。」
その声は怒りではなく、
確かめるような静けさだった。
「ああいう者は、
己の内を隠すために揺れぬのか。
それとも……
本当に、何も動かぬのか。」
長慶は縁側に腰を下ろし、
手のひらで木の縁を軽く撫でた。
その指先の動きは、
考えを探るようにゆっくりだった。
「揺れぬ者は、
時を吸う。」
久秀は、その言葉の意味を測った。
長慶は庭の石灯籠に目を向けた。
灯籠は動かない。
だが、
その周りの草だけが風に揺れていた。
「周りの者が息を合わせようとしても、
ああいう者がひとりいるだけで、
場の呼吸が乱れる。
まるで、
そこだけ時が止まっておるようだ。」
長慶は静かに息をついた。
「……家中にも、
そういう者がいる。」
それだけ言うと、
長慶は立ち上がった。
久秀はその背中を見つめた。
長慶の歩みはゆっくりだったが、
迷いはなかった。
──この人は、
人の“揺れ”を見ている。
久秀は、
その眼の重さを静かに受け止めた。




