【第8章‑4】密談の夜
日が沈み、
屋敷の行灯に火が入った。
小さな火が揺れずに立ち、
壁に淡い明るさをつくっている。
宗久は湯を使い終え、
座敷へ向かった。
足音は静かだが、
歩幅が一定ではなかった。
「志乃、来てくれ。」
短い声が座敷に落ちた。
志乃はすぐに立ち、
廊下を進んだ。
久秀は廊下の端に座り、
障子の向こうの灯りを見た。
座敷の中は音が少なく、
言葉が続かない気配だけが薄く伝わった。
志乃の返事は短く、
息のように小さかった。
久秀は膝の上で手を置き、
動かずに座った。
障子の向こうの静まりが、
廊下の奥まで広がっている。
行灯の火が細く揺れ、
障子に映る明るさがわずかに動いた。
その動きは宗久と志乃の位置のはずなのに、
距離があるように見えた。
しばらくして、
宗久の低い声が届いた。
「……そうするしかない。」
意味は分からない。
ただ、声の調子が一定ではなかった。
志乃がうなずく音が小さく響いた。
障子の明るさがわずかに動いた。
久秀は息を浅くし、
廊下の板に足をつけたまま動かなかった。
座敷の灯りが少し暗くなった。
宗久が行灯の芯を整えたのだろう。
その音がゆっくりと響いた。
「……久秀。」
志乃の声が廊下に届いた。
久秀は立ち上がり、
障子の前に進んだ。
「今日はもう休みなさい。」
志乃の声は落ち着いていたが、
目の向きが一定ではなかった。
久秀はうなずき、
自室へ向かった。
廊下を歩くと、
足音が大きく響いた。
部屋に入ると、
行灯の火が小さく揺れた。
その動きが、
座敷の沈んだ空気と重なって見えた。
久秀は布団の上に座り、
しばらく動かなかった。
廊下の奥で、
行灯の火が細く揺れていた。




