【第8章‑3】宗久の帰宅と乱れた鍛錬
夕方の光が傾き、
庭の松の影が地面に長く伸びている。
玄関の戸が、
いつもよりゆっくりと開いた。
「戻った。」
宗久の声が低く響き、
廊下の空気がわずかに沈んだ。
志乃が台所から出てきて、
静かに頭を下げた。
「おかえりなさいませ。」
宗久はうなずくだけで、
そのまま庭へ歩いた。
庭に出た宗久は、
木刀を手に取った。
柄を握る指が強く締まっている。
久秀は縁側に座り、
宗久の背中を見た。
宗久は構えを取り、
木刀を振り下ろした。
その軌道が、
わずかにずれていた。
いつもなら、
風を切る音がまっすぐ伸びる。
だが今日は、
音が途中で途切れた。
踏み込みも深く、
足が土を強く押した。
砂が小さく跳ねた。
宗久は木刀を振り続けた。
振るたびに軌道がずれ、
足の運びが荒くなる。
木刀が空を切る音が、
庭に不規則に響いた。
久秀は縁側で息を整え、
宗久の動きを追った。
宗久の背中が、
いつもより遠く見えた。
やがて宗久は木刀を下ろし、
深く息をついた。
その息は長く、
肩がゆっくりと下がった。
「……今日はここまでだ。」
宗久は木刀を置き、
庭の松をしばらく見ていた。
視線は一定の場所に止まっている。
志乃が声をかけた。
「宗久様。お湯を用意いたします。」
宗久はうなずき、
屋敷の中へ戻った。
足取りはゆっくりだった。
久秀は縁側に残り、
宗久が消えた戸口を見た。
庭の松の線が、
夕方の光の中で長く伸びている。




