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【第8章‑2】使者の来訪
昼餉の膳がほぼ整い、
志乃が器の位置を確かめている。
そのとき、
門の外で砂利が止まる音がした。
「篠原殿、おられるか。」
はっきりした声が、廊下の奥まで届いた。
久秀は顔を上げた。
志乃も手を止め、戸口の方へ向かう。
奥の部屋から宗久が出てきた。
声を聞いた瞬間に歩みを速めたようだった。
志乃が戸口を開けると、
三好家の使いが立っていた。
徒歩で来たらしく、
肩が上下している。
使者は深く頭を下げた。
「宗久殿は、お戻りか。」
宗久が志乃の後ろに立った。
「ここにいる。どうした。」
使者は宗久に向き直り、
声を落とした。
「至急、お戻りいただきたい。
三好家で急な用ができた。」
短い言葉だったが、
息の速さがそのまま残っていた。
宗久は一度うなずき、
志乃へ視線を向けた。
「すまぬ。昼餉は後にする。」
宗久は草履を履き直し、
使者とともに屋敷を出た。
戸が閉まる音が、廊下に残った。
久秀は声を出さず、
戸口の方を見たまま立っていた。
昼餉前の空気が、
さっきまでとは違う形で止まっている。




