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【第9章‑1】朝の気配
夜の冷たさがまだ残り、
久秀は目を開けた。
行灯の火は落ち、
部屋には薄い朝の光が差し込んでいる。
久秀は布団から起き上がり、
障子をそっと開けた。
朝の空気が頬に触れ、
ひやりとした。
庭の土は湿っている。
台所のほうから、
志乃が器を並べる音が聞こえた。
その音は一定で、
部屋の奥まで届いてくる。
朝餉を終え、
久秀が器を片づけようと立ち上がったときだった。
「久秀。」
座敷のほうから宗久の声がした。
声は大きくないが、
調子がはっきりしている。
久秀は座敷へ向かった。
宗久は座り、
書状を見ていた。
朝の光が横から差し、
横顔に薄い線を落としている。
「来なさい。」
久秀は宗久の前に座った。
宗久は書状を見たまま動かず、
やがて視線を久秀へ向けた。
「今日は、手伝ってもらいたいことがある。」
声の調子が、
いつもの家の用事とは違っていた。
宗久は脇に置いた書状の束を軽く叩いた。
「これだ。」
書状の端が朝の光を受け、
白く光った。
久秀はその束を見た。
胸の奥で息が浅くなる。
宗久は書状に手を置き、
短く言った。
「おまえに任せたい。」




