【第7章‑2】 朝の鍛錬
朝の鍛錬は続いていた。
宗久が木刀を振り下ろすたび、
松の下の地面に落ちた形がわずかに動いた。
風ではなく、
宗久の足の運びと息の速さがつくる動きだった。
久秀は宗久の体ではなく、
地面の形の変化を追っていた。
形の動きは宗久の体よりもゆっくりで、
見落とすことがない。
踏み込みの強さも、
息の速さも、
迷いのない動きも、
すべてが地面の形に残っていた。
宗久が木刀を止めた。
その瞬間、地面の形も動きを止める。
庭の空気が冷たくなったように感じられた。
久秀は息を止めた。
──形は、動きの跡を残す。
宗久がゆっくり振り返った。
久秀の視線が地面に向いているのに気づいたのだろう。
「久秀。」
宗久の声は低く、朝の空気にまっすぐ届いた。
「そこを見ているな。」
久秀は小さくうなずく。
宗久は木刀を下ろし、
地面の形が落ちている場所を指す。
「ここは嘘をつかぬ。」
久秀はその言葉を胸の奥で繰り返した。
宗久は続ける。
「人の動きは速い。
だが地面に落ちた形は、動きの跡を残す。
ここを見れば、相手の動きが読める。」
久秀は地面を見つめた。
宗久の足元の形は動きが少なく、
朝の光でゆっくり伸びている。
宗久は木刀を軽く振った。
地面の形がまた動いた。
「形を読める者は、動きも読める。」
宗久は木刀を納め、
久秀の肩に手を置いた。
「おまえは、ここを見る眼を持っている。」
その声は、
朝の冷たい空気に静かに落ちていった。
松の下の形は、
光が強くなるにつれてゆっくり位置を変える。
久秀はその変化を追いながら、
胸の奥で何かが動き始めるのを感じていた。




