【第6章‑5】 小さな家の重さ
昼の膳を終えると、
宗久は草履を履き、外へ出た。
朝と同じ道を、三好家へ向かって歩いていく。
城下の通りは、
昼を過ぎても大きくは動いていなかった。
店先で職人が道具を並べ、
荷を運ぶ者がゆっくり通りを渡る。
宗久はその横を抜け、
三好家の門へ向かった。
門番が軽く頭を下げる。
宗久は屋敷に入り、
午前と同じ部屋の机に向かった。
机の上には、
開ききれなかった紙が数枚残っている。
端が少し丸まり、
光を受けて白く反射していた。
最初の紙は、
村同士の境についての訴えだった。
地図の写しと、
双方の主張が並んでいる。
宗久は目を通し、
必要な点を紙に書き留めた。
次の紙は、
年貢の納め方についての相談。
天候の影響で収穫が減った村からのものだ。
宗久は棚から過去の記録を取り出し、
紙の端を押さえながら確認していく。
筆を取り、返答を書き始めた。
しばらくすると、
別の家臣が宗久の机に近づいた。
「篠原殿、この件もお願いできますか。」
差し出された紙には、
寺への寄進の順番が記されている。
「承知。」
宗久は筆を走らせた。
部屋には紙をめくる音と、
筆の先が擦れる音だけが続く。
陽が傾き始めるころ、
ようやく区切りがついた。
宗久は筆を置き、机を整える。
「では、今日はこれにて失礼仕る。」
周囲の家臣に軽く頭を下げ、
屋敷を出た。
外に出ると、
昼よりも風が冷たくなっていた。
宗久は歩きながら、
処理した紙の内容を順に思い返す。
どれも小さな案件だったが、
机の上には、また新しい紙が積まれていた。
篠原家に戻るころ、
空は少し赤くなっている。
志乃が玄関先で迎え、
軽く頭を下げた。
「お帰りなさいませ。」
「ただいま戻った。」
宗久は草履を脱ぎ、
敷居をまたいで上がった。
足裏に畳の冷たさが残った。
宗久は座に腰を下ろす。
志乃が湯を入れた茶碗を置いた。
湯気が細く立ち、
夕の光に薄く溶けた。
宗久はひと口飲み、
息をゆっくり吐いた。
今日も、特別な音はなかった。
だが、机の上の紙は減り、
屋敷の中では湯が静かに温まっている。
その積み重ねが、
家の一日を形にしていた。




