【第6章‑3】 宗久の鍛錬
庭の端に、踏み固められた土の一角があった。
そこが、宗久が毎朝立つ場所だった。
土の面には、
長い年月でできた浅い溝がいくつも残っていた。
宗久は木刀を手にした。
朝の冷えが指に触れ、
木の表面が硬く感じられた。
土の匂いがわずかに上がる。
松の下には黒い部分が伸び、
屋敷の奥では湯が沸き始める音が小さく続いた。
宗久は構えを取った。
足裏で土の硬さを確かめる。
一太刀。
木刀が空気を切り、
鋭い音が庭に走った。
二太刀。
三太刀。
木刀の軌道が一定の速さで続く。
振るたびに、
胸の奥に冷えが入り、
吐く息が白く伸びた。
土の上に、
宗久の足跡が新しく刻まれていく。
宗久は木刀を振り下ろし、
息を整えた。
額に汗がにじみ、
風がそれをさらった。
木刀を脇に置く。
木が土に触れ、
乾いた音が一度だけ響いた。
宗久が縁側に戻ると、
志乃が茶を用意していた。
湯気が細く立ち、
朝の光に溶けていく。
志乃は頭を下げた。
「お疲れさまでございます。」
宗久は茶碗を受け取り、
ひと口含んだ。
温かさが喉を通り、
胸の奥に広がった。
「いつもすまぬ。」
志乃は首を振った。
宗久は茶碗を置き、
庭の松を見た。
音のない時間が続いた。
湯気がゆっくりと薄くなっていく。
宗久は立ち上がり、
帯を締め直した。
「三好家へ参る。」
志乃は深くうなずいた。
「どうか、お気をつけて。」
宗久は庭を横切り、
馬小屋へ向かった。
朝の光が屋根に当たり始め、
宗久の足元に細い黒い部分が伸びた。




