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【第6章‑2】 朝支度
宗久が庭を離れ、
道場へ向かったころだった。
屋敷の奥で、
火が起こされ始めた。
志乃はかまどの前に座り、
薪を入れた。
ぱち、と小さな音が走った。
火が板の面を照らし、
赤い色がゆっくり広がった。
湯気の立つ向きと、
火の色の変わり方を確かめる。
水の動きが弱く、
薪の端が白くならない。
志乃は棚から器を取り出した。
白磁の茶碗、木地の椀、漆の盆。
どれも手に馴染む重さだった。
器を並べる。
窓から入る光が、
器の下の畳を暗くした。
その広がりを指先で確かめる。
暗い部分が広いと、
部屋の奥の色が沈む。
狭いと、
光が強く返った。
志乃は器を
指先ほど動かした。
そのわずかな動きで、
部屋の明るさが変わった。
湯が温まり始めると、
志乃は茶を淹れた。
湯気が細く立ち、
朝の冷えに溶けた。
台所の戸口から庭を見る。
宗久の姿は見えない。
木刀が空気を切る音が、
一定の間隔で届いた。
台所の奥では、
使われていない器が
昨日と同じ位置にあった。
志乃は茶を盆にのせた。
盆の上で茶碗がわずかに揺れ、
湯気が細く伸びた。
志乃は歩き出した。
足音は低く、
廊下の木が軽く鳴った。
その歩みが進むたび、
廊下の明るさが少しずつ変わった。




