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【第25章‑6】 美の応答
客が席を辞したあと、
茶室には久秀と四郎次郎だけが残った。
花はまだ色を保っていた。
屏風の金と銀が、
夕の光をわずかに返していた。
四郎次郎が口を開いた。
「……皆、驚いておりました」
久秀は答えなかった。
「利休殿の席を知る者ばかり。
静けさを心得た目で、
この華を見ておりました」
久秀は花に視線を向けた。
大ぶりの花が、
わずかに影を落としていた。
四郎次郎は続けた。
「乱れてはおりませぬ。
ただ……利休殿とは、
まったく違う道でございますな」
久秀は棚の脇に置かれた仕覆に触れた。
九十九髪茄子の形が、
布越しに静かに浮かんでいた。
「静けさは、
あの方の道だ」
それだけ言った。
四郎次郎はうなずいた。
「では、これは……
久秀様の応え、でございますか」
久秀は花から屏風へ、
屏風から座敷の中央へと視線を移した。
「応えるつもりはない。
ただ、
わしの見たものを置いただけだ」
四郎次郎はその言葉を受け止めた。
久秀の“華”は、
利休の“静”を否定していない。
ただ、別の場所に立っているだけだった。
茶室の外から、
談笑の間の笑い声がかすかに聞こえた。
四郎次郎が静かに言った。
「……堺の者は、
今日の席を忘れませぬ」
久秀は答えなかった。
ただ、花の影を見ていた。
利休の静。
久秀の華。
その二つが、
言葉を交わさずに並び立っていた。




