【第25章‑4】 久秀の茶
座敷には、
久秀と四郎次郎だけがいた。
仕覆に収めた九十九髪茄子が、
棚の脇に置かれていた。
四郎次郎が口を開いた。
「……堺の者は、利休殿の茶を知っております。
静けさを旨とし、
名物を脇に置く座を」
久秀はうなずいた。
「知っているからこそ、戻す」
四郎次郎の目がわずかに動いた。
「闘茶に、でございますか」
久秀は首を振った。
「闘茶そのものではない。
だが、あの“華”は使う」
四郎次郎は息をのみ、
久秀の言葉の先を待った。
「利休の静は、美だ。
だが、静けさだけでは、
堺は動かぬ」
四郎次郎は膝を進めた。
「……動かすための華、でございますな」
久秀は仕覆に触れた。
「堺は、名物を忘れたわけではない。
ただ、名物に頼らぬ座を知っただけだ。
ならば、華を戻す。
だが、主にはせぬ」
四郎次郎は深くうなずいた。
「利休殿の静けさを踏まえたうえで、
闘茶の華を……。
堺の者には、
強い席になりますな」
久秀は座敷の中央を見た。
「強くてよい。
堺は、強さを忘れつつある」
四郎次郎は目を伏せ、
かつての“師”としての理解と、
いまの“商家としての現実”を噛みしめた。
「では、席の構えは……」
「光を抑える。
棚は低く。
客の顔が見えるように」
「名物は……」
「脇に置く。
見えるが、主張せぬ場所に」
四郎次郎は静かに笑った。
声には出さず、
目元だけがわずかに緩んだ。
「……久秀様の茶でございますな」
久秀は答えなかった。
ただ、座敷の中央を見つめていた。
四郎次郎は深く頭を下げた。
「承りました。
この席、京都の者として恥なきよう整えてみせます」
座敷の空気が、
わずかに引き締まった。
利休の静と、
闘茶の華。
その二つを重ねた席が、
ここから形を取り始めた。




