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【第25章‑3】 四郎次郎、堺へ
四郎次郎が堺に着いたのは、
久秀が九十九髪茄子を棚に収めてから数日後だった。
屋敷の廊下を歩く足音が、
静かに近づいてきた。
控えの者が襖を開けると、
四郎次郎が一礼して入ってきた。
旅装のまま、
しかし乱れはなかった。
京都の空気をそのまま連れてきたような、
落ち着いた佇まいだった。
久秀は座していた。
四郎次郎は膝をつき、
深く頭を下げた。
「堺まで、お呼びにあずかりまして」
声は低く、
抑えた調子だった。
久秀はうなずき、
棚のほうへ視線を向けた。
四郎次郎もそちらを見る。
仕覆に収められた九十九髪茄子が、
光を受けて静かに佇んでいた。
四郎次郎は息をわずかに吸った。
その気配は、
驚きというより、
“覚悟を確かめた”ような静けさだった。
「……お戻りでございましたか」
四郎次郎は膝を進め、
棚の前で姿勢を整えた。
久秀は短く言った。
「……茶会を開く」
四郎次郎は一度だけうなずいた。
「大茶会になりますな」
久秀は答えず、
ただ視線を棚から外さなかった。
その沈黙が、
決意の深さをそのまま伝えていた。
四郎次郎は膝を進め、平伏した。
「承りました。
京都の者として、
恥なきよう務めさせていただきます」
その声には、
京都の茶人としての誇りと、
久秀への敬意が静かに混じっていた。
堺の屋敷に、
京都の気配がひとつ加わった。




