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【第25章‑2】 堺屋敷
安土から戻って数日が過ぎた。
屋敷は静かで、
庭の松が風に揺れる音だけが座敷に届いていた。
久秀は棚の前に進み、
畳に膝をついた。
安土から持ち帰った包みを、
そっと手前に置いた。
布をほどく。
九十九髪茄子の肩が光を受け、
淡く浮かび上がった。
両手で持ち上げる。
手のひらに沈む重さが、
安土で受け取ったときより深く感じられた。
蓋をわずかに開け、
すぐに閉じた。
香りを確かめるでもなく、
ただ“そこにある”ことを確かめるように。
仕覆に収め、
棚にそっと置いた。
布の表面に光が当たり、
影が畳に細く伸びた。
利休の席の静けさが、
ふいに胸の奥に浮かんだ。
名物を使わぬ茶。
光を抑えた座。
あの断層が、
再び形を持って現れた。
久秀はしばらく膝をついたまま、
棚の仕覆を見ていた。
庭の松が揺れる音が、
座敷の奥まで届いていた。
やがて立ち上がり、
庭に目を向けた。
光の入り方、
客の動き、
名物の置き所。
そのすべてが、
静かに形を取り始めていた。
大茶会を開く。
その決意は、
言葉になる前に胸の奥で固まっていた。




