【第24章‑1】 利休の茶室を訪問
利休からの招きを受けたのは、
数日前のことだった。
四郎次郎が久秀のもとへ来て、
静かに頭を下げた。
「利休殿が、久秀様をお招きしたいとのことにございます」
久秀はその場で日を決めた。
約束の日、
久秀は堺へ向かった。
町に入ると、
空気が以前とは違っていた。
暖簾は低く垂れ、
人々の声はどこか慎重だった。
織田の旗が掲げられてから、
この町の静けさは別の色を帯びている。
利休の屋敷に着くと、
門の脇に若い者が一人控えていた。
利休の家の者らしい、
落ち着いた身なりだった。
「久秀様でございますね。
お待ちしておりました。こちらへ」
若い者は深く頭を下げ、
屋敷の奥へと案内した。
母屋の前を通り、
露地へ続く細い道に出る。
露地は狭く、
飛び石の間に苔が広がっていた。
石はわずかに湿りを含み、
踏むと冷たさが伝わった。
音はほとんどなく、
足音だけが静かに響いた。
露地の奥に、
小さな躙り口があった。
若い者はその手前で立ち止まり、
静かに言った。
「こちらが茶室にございます。
どうぞお進みくださいませ」
案内役はそこで下がった。
久秀は躙り口に手を添え、
身をかがめて中に入った。
茶室の中は、
外よりもさらに暗かった。
光は一方向からだけ差し込み、
畳の一角に細い筋を作っていた。
その光の中に、
小さな花が一輪置かれていた。
「お待ちしておりました」
利休の声が、
暗がりの奥から静かに響いた。
久秀はその声に導かれるように座り、
茶室の空気を吸い込んだ。
湯の気配が、
かすかに漂っていた。




