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【第23章‑1】 豪商の相談

朝の名残の光が、四郎次郎の町家の土間に薄く残っていた。

戸口の影に、使いが静かに立っていた。

「旦那衆が、お話をと」

使いが頭を下げる。

四郎次郎は草履をそろえ、戸口を出た。

通りを少し歩き、会所へ向かった。

会所の奥の座敷では、

町衆たちがすでに座していた。

畳の上には袱紗や茶入がいくつも並べられている。

四郎次郎が座敷に入ると、

男たちの視線が一斉に向けられた。

今井宗薫が膝を正し、

「信長公とお会いしたい。堺のためにも、

一度席を共にしていただきとうございます」と口を開いた。

四郎次郎は座に並ぶ手元を見た。

指先が落ち着かず動いている者が多い。

別の商人が声を落とし、

「闘茶の席を設けとう存じます。賭け事にはいたしません。

ただの勝負として腕をお試しいただく形にて」と続けた。

四郎次郎は小さくうなずき、

「信長公を正客に迎える覚悟は本当におありか」と問うた。

町衆たちは深く頭を下げ、

「すべて、お任せ致します。」と答えた。

四郎次郎は炉の位置や座の流れを頭の中でなぞり、

「……久秀様にお取り次ぎいたしましょう」と告げた。

その言葉に座の空気がわずかに緩んだ。

「ただし、勝負の流れは自然のままに。

無理な形はいたしません。」

四郎次郎が念を押すと、

町衆たちは顔を見合わせ、

「信長公に気持ちよく勝っていただけるよう、

お願い致します。」と答えた。

四郎次郎は立ち上がり、

草履の音を畳に落とした。

「段取りは、引き受けましょう。

すべてお任せ頂きます。」

商人たちは安堵の息をつき、

外の光が座敷に差し込むと、茶入の影が長く伸びていった。


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