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【第22章‑5】 久秀、堺の夜を歩きながら変質を噛みしめる
路地を抜けると、
堺の町の灯りが広がった。
家々の格子から、
まだ人の声が漏れていた。
久秀は、
ゆっくりと歩き出した。
草履の音が、
石畳に静かに落ちた。
茶屋の裏手では、
商人たちがまだ話していた。
名物の名が、
小声でいくつも飛び交っていた。
久秀は足を止めた。
その声の調子が、
茶の香りとは無縁のものに聞こえた。
(……値の話ばかりよ。)
路地の先で、
若い者たちが駕籠を待っていた。
手には銭袋。
目は落ち着かず、
行き交う人の袖を追っていた。
久秀は、
その様子をしばらく見ていた。
茶の場で見た指先と、
同じ動きだった。
(……堺の息が、
変わってきておる。)
町の奥から、
夜更けの鐘が響いた。
その音に、
人々の足が一瞬だけ止まった。
だがすぐに、
また銭の話が始まった。
名物の名が、
風に乗って流れてきた。
久秀は歩きながら、
家々の灯りを見た。
その灯りの奥で、
人々の手が忙しく動いているのが
目に浮かんだ。
(……この町は、
まだ変わる。)
四郎次郎の言葉が、
胸の内で静かに重なった。
世の動きが変われば、
名物も変わる。
名物が変われば、
人の心も変わる。
久秀は、
夜空を見上げた。
雲が薄く流れ、
月がその間からのぞいた。
その光の下で、
堺の町は
眠らずに動き続けていた。
久秀は、
その変わり目を
ひとりで噛みしめた。




