【第22章‑2】 第一服・第二服(華やかで喧噪の闘茶)
座敷には、すでに客が揃っていた。
灯りが低く、茶碗の影が畳に落ちていた。
亭主が、第一服の茶碗を運んだ。
茶碗の縁が、灯りを受けて光った。
客の目が、その光に吸い寄せられた。
「では、第一服。」
亭主の声が静かに響いた。
茶碗が、ひとつずつ客の前に置かれた。
最初の客が、茶を口に含んだ。
その瞬間、座敷の空気がわずかに動いた。
「……宇治。」
客の声が落ちた。
すぐに、別の客が言った。
「いや、これは……堺の混ぜよ。」
声が重なり、ざわめきが広がった。
銭袋が、畳の上に置かれた。
「十貫。」
その声に、別の客が笑った。
「ならば、十五貫だ。」
金の音が、座敷の奥まで響いた。
茶の香りよりも、金の匂いが強かった。
(……味を見ておらぬ。)
四郎次郎は、客の目を見た。
茶碗が回り、第二服が始まった。
亭主の手つきは静かだったが、
客の呼吸は、すでに浅くなっていた。
「どうだ。」
「いや、違う。」
「さっきのより軽い。」
声が重なり、座敷が揺れた。
若い茶人が、額の汗をぬぐった。
その手が、わずかに震えていた。
(……金が、手を乱しておる。)
豪商のひとりが、扇で口元を隠した。
「二十貫でどうだ。」
その声に、周りの者がざわついた。
茶碗の中の茶は、
静かに湯気を立てていた。
だが、その湯気を見ている者は少なかった。
四郎次郎は、座敷の端を見た。
久秀が、静かに客の動きを追っていた。
(久秀様も、感じておられる。)
第二服が終わり、
亭主が茶碗を下げた。
座敷には、金の気配だけが残った。
闘茶の熱は、
すでに茶そのものから離れつつあった。




