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【第22章‑1】 堺の茶屋に人が集まる(闘茶の夜の始まり)
堺の町に、夜の風が流れていた。
茶屋の前には、駕籠がいくつも並んでいた。
駕籠の戸が開き、豪商が降りた。
そのあとから、寺社の使いが続いた。
若い茶人が袖を払って立ち上がった。
暖簾の内には、
灯りが揺れ、笑い声がこぼれている。
(……今夜は、大きな場よ。)
四郎次郎は、茶屋の屋根を見上げた。
瓦の影が、月の光を受けていた。
久秀が静かに歩みを進めた。
草履の音が、石畳に吸い込まれていく。
茶屋の前には、すでに人が集まっていた。
銭袋を握る者がいた。
扇を持つ者がいた。
目の奥に熱を宿した者がいた。
(……金の匂いがする。)
豪商のひとりが、仲間に耳打ちした。
「今夜は、名物が動くらしい。」
その声が、風に乗って広がった。
久秀は暖簾の前で立ち止まった。
茶屋の奥から、茶碗の触れ合う音がした。
その音に、金の気配が混じっていた。
四郎次郎は、久秀の横顔を見た。
(……様も、感じておられる。)
暖簾が揺れた。
灯りの揺れが、ふたりの足元を包んだ。
久秀は静かに暖簾をくぐった。
四郎次郎も続いた。
闘茶の夜が、始まろうとしていた。




