【第21章‑4】 座敷で語る二人(畿内の情勢)
久秀は扇を膝に置き、
藤吉郎の顔を見た。
「堺の町、
寺社、
国衆の使い。
その動き、
いか様に見え申された。」
藤吉郎は、
順に言葉を置いた。
「堺では、
荷の流れが変わり始めておりました。
鉄と油の扱いが増え、
商人どもの目が、
三好よりも
新しき力を追っておりました。」
久秀はうなずき、
扇を少し動かした。
「寺社は。」
「寺ごとに、
顔つきが違い申した。
三好の名を出すと
目をそらす僧もおれば、
声を潜めて
残党の所在を語る僧もおりました。」
久秀の目がわずかに動いた。
「……なるほど。」
藤吉郎は続けた。
「参詣の数も減り、
供え物も少のうござった。
寺社も、
どちらへ寄るか
決めかねておる様子にござる。」
久秀は扇を閉じ、
静かに置いた。
「国衆は。」
「摂津より、
使いが何度も往来しておりました。
道の土が
踏み固められておりましたゆえ、
ここ数日のことにござる。」
久秀は、
その言葉を深く受け取った。
「使いの顔つきは。」
「迷いが見え申す。
三好に戻る気もなく、
かといって
信長様へ寄る決めもつかず、
ただ様子をうかがっておる顔にござる。」
久秀は目を細めた。
「……畿内の者どもは、
風の向きを読むのが早い。
そなたさまの見た通りにござる。」
藤吉郎は、
久秀の言葉を静かに受けた。
久秀は少し身を乗り出し、
声を落とした。
「三好の残る者どもは、
摂津と河内に散っており申す。
だが、
まだ根を持っておる家もござる。」
藤吉郎はうなずいた。
「根を断つには、
どこを押さえればよろしゅうござるか。」
久秀は、
畳の上に扇の先を置き、
ゆっくりと動かした。
「まずは、
荷の流れを押さえること。
堺と、
摂津の川筋。
ここを押さえれば、
三好の者どもは
動けぬ。」
藤吉郎の目がわずかに光った。
「寺社は。」
「寺社は、
早う動かせば動き申す。
だが、
遅れれば
別の家に寄る。
扱いどころが肝心にござる。」
藤吉郎は、
その言葉を胸に刻んだ。
久秀は、
藤吉郎の表情を見て
小さくうなずいた。
「藤吉郎殿。
そなたさまなら、
畿内を歩き、
畿内をつかめ申そう。」
藤吉郎は深く頭を下げた。
「お言葉、
ありがたく頂戴仕る。」
座敷の空気が、
静かに締まった。
二人の間に、
畿内の地図が
言葉なく描かれていくようであった。




