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【第21章‑3】 藤吉郎、久秀を正式に訪ねる

大和へ入る前に、

藤吉郎は小者を一人走らせた。

「信長様の命により、

藤吉郎、参上仕る」とだけ記した文を持たせた。

夕方の光が山の端に沈むころ、

藤吉郎は少人数の供を連れ、

久秀の屋敷へ向かった。

道を行き交う者どもの顔つきに、

まだ落ち着かぬ気配があった。

(……ここも、

静まってはおらぬ。)

屋敷に着くと、

門の前に控える者が

すぐに名乗りを求めた。

藤吉郎が名を告げると、

家臣は深く頭を下げた。

「松永様、

座敷にてお待ちにございまする。」

藤吉郎はうなずき、

案内に従って屋敷の中へ進んだ。

畳の匂いと、

柱の木目の古さが、

この屋敷が長く大和を見てきたことを語っていた。

座敷の前で膝をつき、

名乗りを告げると、

奥から声が返った。

「入られよ。」

藤吉郎が座敷に入ると、

久秀は上座に静かに座していた。

直垂の袖を整え、

藤吉郎をまっすぐに見た。

藤吉郎は深く頭を下げた。

「信長様の命により、

参上仕りました。」

久秀はうなずき、

手を軽く動かして座を促した。

「遠路、

ご苦労にござる。」

藤吉郎は座を正し、

言葉を続けた。

「先の献策、

信長様へお伝え申しました。

上様もご満足にござる。」

久秀の目が、

わずかに細くなった。

「ありがたく存ずる。」

その声には、

信長の意図と、

藤吉郎の誠意を量る静かな重みがあった。

久秀は膝の前の扇を

ゆっくりと開いた。

「畿内の道々、

いかようにご覧になられ申した。」

藤吉郎は、

堺で見た荷の流れ、

寺社の僧の顔つき、

国衆の使いの往来を

順に述べた。

久秀は、

その一つひとつを

深く聞き取っていた。

扇が静かに閉じられた。

「藤吉郎殿のご慧眼、

恐れ入り申す。」

藤吉郎は頭を下げた。

久秀は目を細め、

静かに言った。

「信長公が、

藤吉郎殿を重用なさるわけでございますな。」

座敷の空気が、

わずかに変わった。

それは、

二人の間に

新しい線が結ばれた

静かな瞬間だった。

藤吉郎は、

その変化を胸に収めた。

(……この方となら、

畿内を動かせる。)

久秀の目にも、

同じ光が宿っていた。


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