【第21章‑2】 寺社を訪ね、僧の反応を見る
藤吉郎は港を離れ、
寺の多い通りへ向かった。
朝の光が瓦に当たり、
白く反射していた。
最初に訪ねた寺では、
僧が庭を掃いていた。
藤吉郎が名乗ると、
僧は箒を止め、
静かに頭を下げた。
「三好の者どもは、
もう参りませぬ。」
僧の声は落ち着いていたが、
その目の奥に
わずかな緊張があった。
藤吉郎は、
その揺れを見逃さなかった。
(……この寺は、
もう三好を見ておらぬ。)
次の寺では、
門前に僧が二人立っていた。
藤吉郎が近づくと、
一人が目をそらし、
もう一人が
藤吉郎の腰の刀を見た。
「参詣でございますか。」
声は丁寧だったが、
どこか探るようだった。
藤吉郎は軽く頭を下げた。
「町の様子を
見て回っておるだけにござる。」
僧はうなずいたが、
その手は衣の袖を
わずかに握っていた。
(……ここは、
まだ決めておらぬ。)
境内には、
参詣の者が少なかった。
香炉の煙が細く立ち、
風に揺れていた。
藤吉郎は、
本堂の柱の傷や、
供え物の量を見た。
どれも、
この寺が
どちらへ寄ろうとしているかを
静かに語っていた。
三つ目の寺では、
老僧が一人、
縁側に座っていた。
藤吉郎が名乗ると、
老僧は目を細めた。
「堺も、
変わり始めておりますな。」
藤吉郎は、
その言葉に耳を傾けた。
「三好の者ども、
あちこちへ散りました。
だが、
まだ根を残しておる。」
老僧の声は静かだったが、
その静けさの奥に
長い年月の重みがあった。
藤吉郎はうなずいた。
(……やはり、違う。)
寺社の空気は、
堺の町とはまた別の形で
変わり始めていた。
僧の顔つき、
参詣の数、
境内の静けさ。
そのすべてが、
畿内の地面が
ゆっくりと向きを変えつつあることを
藤吉郎に伝えていた。




