【第20章‑4】 三好家の処理をめぐる対立
客間の空気が静まり、
庭の方から松の葉がこすれる音がかすかに聞こえた。
久秀は、
光秀の顔を見つめたまま口を開いた。
「明智殿。
三好家の残る者どものこと、
どのようにお考えか。」
光秀は、
間を置かずに答えた。
「討つべき者にござる。
畿内を乱した元を断たねば、
道は整いませぬ。」
久秀は、
光秀の言い切る調子を確かめるように目を細めた。
「討てば、
散り申す。」
光秀はすぐに返した。
「散らぬように押さえればよい。
乱れの元を断つには、
まず討つことが肝要にござる。」
久秀は首を横に振った。
「散った者は、
押さえても散りまする。
散れば、
それぞれが別の家に寄り、
火種を増やし申す。
畿内では、
討つよりも“どこへ収めるか”が肝心にござる。」
光秀の目がわずかに鋭くなった。
「収めるとは、
情けをかけることか。」
「情けではござらぬ。」
久秀は静かに言った。
「畿内を乱さぬための、
置きどころにござる。」
光秀は、
姿勢を崩さずに言葉を続けた。
「置きどころよりも、
筋を通すことが先。
将軍家の御政道を示すためには、
乱れの元を断たねばならぬ。」
久秀は、
光秀の表情を見た。
その顔には、
ためらいも迷いも見えなかった。
(この男は、
正しさを先に置く。
だが畿内は、
正しさだけでは動かぬ。)
光秀はさらに言った。
「三好家の残る者どもを放置すれば、
国衆も寺社も、
迷い続けるだけ。
迷いを断つためには、
まず元を断つべきにござる。」
久秀は、
光秀の言葉を受け止めながら、
静かに息をついた。
「明智殿。
畿内の者どもは、
元を断たれても、
別の元を作り申す。
それがこの地の習いにござる。」
光秀は、
久秀の言葉を聞いても、
表情を変えなかった。
その目はまっすぐ久秀を見ていた。
「それでも、
筋を通すことが先にござる。」
二人の言葉は、
同じ三好家を見ながら、
まったく別の方向を向いていた。




