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【第20章‑3】 畿内の情勢をめぐる意見の違い

客間の障子越しに、

庭を行き来する家臣の足音がかすかに響いていた。

光秀は、

久秀の言葉を受けて口を開いた。

「寺社も国衆も、

まだ腹を決めておらぬとのこと。

ならば、

迷わぬように筋を通さねばなりませぬ。」

久秀は、

湯飲みを置き、

光秀の顔を静かに見た。

「筋を通すこと、

確かに大事にござる。

されど、

畿内の者どもは、

順に動きまする。」

光秀は眉をわずかに寄せた。

「順、

と申されるか。」

久秀は頷いた。

「まずは堺の荷が通るかどうか。

荷が動けば、

商人が動く。

商人が動けば、

寺社が道を開ける。

寺社が動けば、

国衆が旗を決める。

畿内は、

そのように動きまする。」

光秀は、

久秀の言葉を聞きながら、

その“段取り”を頭の中で並べた。

だが、

すぐに言葉を返した。

「順番よりも、

将軍家の御政道を明らかにすることが先と存じます。

道を示せば、

迷う者も迷わずに済みましょう。」

久秀は、

光秀の言葉の“ためらいのなさ”を感じ取った。

「明智殿。

畿内の者どもは、

道を示されても、

すぐには従いませぬ。

まず、

自らの身の置きどころを確かめとうございまする。」

光秀は静かに言った。

「身の置きどころは、

将軍家のもとにござる。

それを明らかにするために、

筋を通すのでござる。」

久秀は、

光秀のまっすぐな言葉を聞き、

わずかに息をついた。

(この男は、

迷う者の心よりも、

道そのものを先に置く。)

光秀は続けた。

「摂津、河内の国衆が迷うなら、

迷わぬように押さえればよい。

三好家の残る者どもも同じ。

散らぬように、

散らぬ道を敷けばよい。」

久秀は、

光秀の言葉を聞きながら、

その“硬さ”を見ていた。

「明智殿。

散る者は、

押さえても散りまする。

散れば、

別の者が寄る。

畿内とは、

そのような地にござる。」

光秀は、

久秀の言葉を受けても、

表情を変えなかった。

「それでも、

筋を通さねばなりませぬ。

将軍家の御政道を、

畿内の隅々まで届かせるために。」

久秀は、

光秀の目を見た。

その目には、

迷いがなかった。

(この男は、

道を一本に定めようとする。

畿内の道が、

いくつにも分かれておることを、

まだ知らぬ。)

客間の外で、

荷車の軋む音がまたひとつ響いた。

二人の間に、

静かな違いが浮かび上がっていた。


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