【第20章‑2】 光秀、久秀の屋敷を訪れる
大和の町に入ると、
道はよく掃き清められ、
荷車の跡がまっすぐ続いていた。
光秀は馬を進めながら、
道の整い方を確かめた。
(この地を治める者の手が、
隅々まで届いておる。)
東大寺の南にある久秀の屋敷は、
高い塀に囲まれ、
門前には家臣が二人、
槍を立てて立っていた。
光秀が名乗ると、
家臣はすぐに門を開いた。
「どうぞお通りくだされ。
ただいまお取次ぎいたします。」
光秀は馬を降り、
門をくぐった。
庭は広く、
砂利が均され、
松の枝がよく手入れされていた。
戦の匂いはなく、
静かな屋敷であった。
客間に通されると、
久秀が座していた。
久秀は、
光秀の姿を見て軽く頭を下げた。
「遠路、
ようこそお越しくだされた。」
光秀も深く礼を返した。
「将軍家の御意を伝えるため、
参上仕りました。」
二人は向かい合って座った。
光秀は、
まず畿内の現状を尋ねた。
「摂津、河内の道、
いかがでござるか。
国衆の動き、
定まっておりまするか。」
久秀は、
言葉を選びながら答えた。
「寺社も国衆も、
まだ腹を決めておりませぬ。
堺の荷が通る日もあれば、
止まる日もござる。
摂津の者どもは、
三好の残りを気にしており申す。」
光秀はわずかに眉を寄せた。
(やはり、
迷う者が多い。)
久秀は続けた。
「大和は、
ようやく落ち着いてござる。
興福寺も東大寺も、
道を乱す気配はござらぬ。
国衆も、
織田殿の旗に従うと申しておりまする。」
光秀は静かに頷いた。
(大和は整っている。
ならば、
まずこの者と話を進めるべきだ。)
久秀は、
光秀の表情を見ながら言った。
「将軍家の御意、
お聞かせくだされ。」
光秀は姿勢を正した。
「承知仕りました。
まずは、
三好家の残る者どもの扱い。
次に、
摂津・河内の国衆の動き。
そして、
大和を治める者の考えを、
将軍家にお伝えすること。」
久秀は静かに頷いた。
屋敷の外では、
荷車の軋む音が遠くで響いていた。




