【第19章‑9】 大和、静まる
京での務めを終え、
久秀が東大寺南の屋敷へ戻ったのは、
夕刻の光が山の端に沈むころだった。
門をくぐると、
家臣が駆け寄ってきた。
「松永様。
興福寺より使いが参っております。」
久秀は頷き、
客間へ向かった。
興福寺の僧は、
深く頭を下げた。
「大和の道、
これより松永殿の御支配に従います。
寺領のこと、
まずはご相談申し上げたく。」
久秀は静かに聞き、
短く返した。
「承った。」
僧が去ると、
次に国衆の使いが続いた。
「松永様。
我ら、
これより織田殿の御旗に従います。
大和の道筋、
乱れぬよう努めます。」
その言葉に、
久秀はわずかに頷いた。
夜になると、
堺の商人衆から文が届いた。
「大和の荷、
明日より通します。
道中、
松永様の御配慮を賜りたく。」
久秀は文を置き、
灯火の揺れを見つめた。
(……京の風が、
ここまで届いたか。)
翌朝、
東大寺の僧が訪れた。
「松永様。
南都の者ども、
皆、
静まっております。
町も、
道も、
乱れはございません。」
久秀は庭を見た。
風が、
ゆっくりと木々を揺らしていた。
その揺れは、
数か月前のような
ざわついたものではなかった。
屋敷の外では、
国衆の馬の足音が遠ざかり、
町の方からは
商人の荷車の軋む音が聞こえた。
(……大和は、
静まった。)
久秀は立ち上がり、
家臣に言った。
「これより、
道を整える。
京と大和を、
乱れなくつなげよ。」
家臣たちは深く頭を下げた。
大和は、
久秀のもとに収まりつつあった。
畿内の新しい風が、
ようやく大和の地にも
根を下ろしたのだった。




