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ブラッドムーン・オールクロス 頂上・決戦の地

赤い月、頂上――




私達全員は、無数の存在達が争うその場所を見渡した……


頂上自体の大きさは、螺旋の道の比にならず、UFOを十数台停めても、まだ余裕がありそうな程に広い。


そんな場所に、あらゆる存在がひしめきあい、地上、上空問わず、大激戦が行われていた。


その中央に、暗黒物質が固まって出来た山のような場所があり、その頂点にポツンとある玉座に、リョクは座っていた。


天の扉の異形がその玉座のリョクに、突撃したり魔術で接近しようとすると、その暗黒物質が、それらを例外無く飲み込み、一切の侵入を許してはいなかった。


それどころか、その周りには、特段強そうなボス格の個体が取り囲む様に守っており、接近する存在達を迎撃していた。





頂上一面、様々な属性魔術が飛び交い、眩い閃光が放たれ、火柱が上がる。


見上げる程に大きい巨獣が、敵を踏みつけ、集団で浮かぶ魔術師達が、連撃の魔弾を撃ち込んでいる。眩い光の存在が点々と瞬間移動し、破滅的な光の柱の裁きを与えている……




キョウが叫んだ。


「リョクーーー!!!!!!!!!」




轟音がそこかしこに鳴り響く中で、その声が確かに届いた様に、リョクは


私達を見た。


当然ながら、以前の明るいリョクの顔では無い。




「オオオオオオオオオオ!!!!!!!!」


キョウは雄たけびを上げ、琥珀の聖剣を天に掲げた。


すると、リョクまで一直線の道の、その上空に、ネオン色のガラス板が無数に生成さ出す。


更にはキョウは、ブーメランのように聖剣を思い切り放り投げ、物凄い衝撃音と共にそれら全てを粉砕した。


それらの破片は、無重力のように宙で舞って、煌々と魔力結晶の雨の如く輝く。


キョウは、一周して帰って来た聖剣をキャッチし、全速力で前方へ突撃し出した。


勇者のような眩いオーラを体から放出し、聖剣で遮る者全てを薙ぎ払うキョウ。


魔力結晶の雨は、そんなキョウの行く手を阻む者達に、容赦なく鋭く光り、途轍もないエネルギーの雨として突き刺さっていった。





「全く無茶なんだからあああああぁぁぁ!!!!!!」


ルリメアちゃんは、キョウの後をついて上空を飛び、キョウの行く手を塞ぐ敵が立つあちらこちらの地面に、冥府の黒沼の空間を出現させ、敵を引きずり込んでは、血の矢を無数に連射している。




「リョクさん待ってて下さい!!!!!」


クオリアちゃんは、キョウの後ろにべったりつき、杖の先端の宝玉から、空間を歪ます程に強烈な、カラフルな原色のビームを放ち、背後から襲い掛かる敵達を退けて行く。




それを見たみんなも一斉に駆け出す。




私は、螺旋の道と同じように巨大な盾で、上空の魔術攻撃からみんなを守っている。ゼスパによる光の円に関しては、相手への攻撃では無く、仲間に急接近する敵に対抗する為の防御として、盾と同じく頭上で待機させている。




そのように私達は、万全に守りを固めていたが、リョクの前にいるボス格の個体の内一体が、キョウの前に一瞬で飛来してやってきた。


とても硬そうな血色の甲殻を持つ、四つ頭のケルベロスのような存在だった。


クジラでも簡単に捕食してしまいそうな大きさと重量感だった。





「止まるな!!!ここは任せろ!!!」


リリスは煌々と光る魔剣をビュインと伸ばし、瞬時にキョウの前に立ち、血色のケルベロスと睨み合う。




「すまねぇ!!」


キョウはそいつを無視し、敵を魔術剣で一斉に薙ぎ払いながら進む。


金色の斬撃の閃光と眩い火花が散る。




しかしリリスに向かい、四方八方から赤い獣の様々な種族が、連携して襲い掛かる。


ロボット型のような機敏な強兵の群れや、目で追えない程にすばしっこい血色の糸のような生物達が、死に物狂いでリリスを邪魔しようとしている。




「ダーリンにさわらないでぇぇぇぇぇ!!!!!」


ゾアリアは、掌から特大に燃え滾るプリズムのエネルギーを放出し、極光の奔流で、リリスに群がる赤い獣達を、一瞬で壊滅状態に吹き飛ばした。




「ありがとゾア!!助かったよ!君達は早く行くんだ!ここは私達に任せろ!」




「そうよ!!私達の心配はいらないわ、あなた達は早く仲間を助けに行ってあげて!!」




リリスとゾアはお互いに背中を預けて、私達に笑顔を向ける。




「二人とも……絶対に生き残ってねっ!!!」


ヒノは両手を三角形にして素早く呪文を唱え出した。




「ジーム……ジムイーヴァ……シマーゾ……デル…ソエーヌヴァ…レジェンディア」




すると、リリスとゾアリアの頭上に、三つの様々な大きさの光の渦が出現した。


そして、その中から三体の召喚が瞬く間に顕現する……




一体は、魔術師の白ローブを着た美しい女性。


下半身が竜の様であり、両腕には巨大で荘厳な白の槍と盾を持ち、体の周囲には勾玉の様な物が、神聖な眩い光を放ち回っている。


竜の体の部分から気体を噴出し、それがゆらゆらと浮遊して、美しい花の結晶の形になったり気体に戻ったりしている。


私は詳しくないが、恐らく神獣の類だと思う。




もう一体は、真っ白な両手部分だけの存在。爪がとても長い。


その大きさは、先程の血色のケルベロスですら押さえつけれそうな程だ。


その両手の存在はいくつか巨大な指輪をはめており、指輪には宝玉のようなとても大きな石がついている。その中には、地球か?何処かの星のドキュメンタリーの様な映像が淡々と流れ続けている。


未知過ぎて何が何だか分からないけど、味方である分には、底知れなく心強い。




この二体は、かつてヒノがビーチでみんなに見せてくれた召喚だ。




さらに最後の一体は、懐かしき小さな賢人カリダノだった。


サイズ以外はほぼ人に近い。スマートな正装で、おかっぱの黒髪、目には片眼鏡をつけている。異界のトレジャー鑑定が凄く得意で、頭がすこぶる良い、小人の種族の女の子だ。


カリダノは、両手の召喚の上に乗っかって登場した。




「ルカデンカじゃない!!物凄く久しぶりだわ!!」


両手の召喚を見たゾアリアの顔がパッと明るくなった。




「カリダノちゃんです!」


響が駆け寄って、頭を撫でようとする。




「な、な、なんですか!?ここは!!って、始まりの王リリス・パンクライヴに、女神ゾアリア・レ―ドもいるじゃないですか!!どう言う事ですか!?


姫様!!?」


カリダノが、尻もちをついて驚いている。




「そうよ、でもあまり話す時間が無いわっ!今、貴方の目の前で歴史的瞬間が巻き起こっているってだけ!だからあなたも手伝って!出来る限り最大の知を尽くして、他の二体を指揮しながら、王と女神を援護して!」


ヒノがそう述べたと時のさまは、まるで女王そのものだった。




会話の最中、側方からヒノに氷結の魔術が発射された。


それをノウコさんが、魔術毎、術者集団も一緒に、一直線に風圧のみの居合で吹き飛ばした。


「ノウコやるー」


ミコトちゃんがバチンと指を鳴らして言う。




「ミコト様こそです」


ミコトちゃんも、鉾をあらゆる方向へ振りかざし、広範囲の低レベルな相手を、魔術で混乱させ、戦闘困難な状況にしている。





元自分の女王すら背後から攻撃される状況に、カリダノは何かを理解したように言った。


「そう言う事ですか……承知しました。クイーン・クリシュマヒノあなたの仰せのままに……我、カリダノ・グリムディア、叡智を探求する賢者の一族の誇りをかけ王達の援護に尽力致します!」





「任せたわ!あなた達もお願いね!!」


ヒノは、カリダノと二体の召喚に向かって言った。




「流石ゾアリアの末裔だね!ヒノ、君のお陰で百人力だよ、負ける気がしない!!!さぁ遠慮せず早く行き給へ!!」




「自慢の子孫だわヒノ、たいしたものよ!!私もかっこいいとこ見せないとね!!」


リリスとゾアリアは、ヒノに向かって満面の笑みを向けた。




「二人共……絶対また会いましょう!ね!!」


ヒノは、力強くそう言った。







そうこうしている内に、周りに赤い獣達が密集してきた……




「さぁみんな、ここは任せて、早く行こう!!」


幽明も、巨大なデジタルモニターのお札から出している、エメラルドグリーンの無数のビットの物体を一体に集中させ、超大型の鵺の形にし、先へ進む私達の護衛として、存分に暴れ差し出した。


あらゆる角度から襲いかかって来る敵に瞬時に反応し、凄まじい迫力で噛みつくそれに、赤い獣達のいくつかは慄いて戦意喪失している。




「なんか、シスイが召喚したやつより大きくない?」


ミコトちゃんが目を細めて言う。




「あぁ改良したからね解析して。シスイ嫌だった?」


幽明が、私に手を合わせごめーんとウインクした。




改良ってなんだろ……




「全然いいよ、あの時の記憶あんまりないし!」


私は、ブンブンと首を振った。




「んじゃ、遠慮なく!」


幽明は、のびのびと鵺に指示を出しだした。





リョクまでの距離がどんどん近くなっている。


リョクの周りを取り囲む、ボス格の個体達は何やら話し合っている。


完全に私達を警戒し出したみたいだ。




話し合いが終わると同時に、その内の二体が、私達に向かって踏み出した。


ワニのようなシルエットの、岩石を全身に纏った超巨大四足獣と、体に太古の魔術文字が刻まれたような、金ピカの魔法剣士のようなやつだ。


他の個体より一段と大きいそいつらがこちらへ向かうと、似たような個体達が瞬く間に集まってきて、大軍勢となって私達の道を塞いだ。




キョウはやむなく立ち止まる。


次の瞬間――


その背中に鋭い槍が飛んで来た。





バシ!!!


トドリが片手でギリギリで掴み、バキッとへし折る。




「さーて、ミレア。私達も久しぶりに本気で暴れちゃおっか!?」


以前、私を訓練してくれた時に見たような、金色のオーラをドクドクとマグマのように垂れ流しながらトドリは笑って言う。


私は、あの時の訓練を思い出し、その笑みにゾクッとした……





「よほほほほ!大事な後輩ちゃんの為だものね!?全く容赦しないよ!?のっちゅ!!」


ミレアは喋りながらも、先制攻撃のように、キョウの目前で道を塞ぐ、超巨大四足獣と金ピカ魔法剣士の軍勢を、大雨のように召喚した、無数の真紅の鎖でぎちぎちに縛りつけた。




「トドリ店長……ミレアさん」


キョウが泣きそうな顔で言った。




「そんな顔しないの!君は進めキョウ。君ならきっとやれるさ!後で、しっかりウチで働いて貰うけどね!」


トドリは笑ってグーサインを出す。




そんなトドリとミレアに、巨兵達が襲い掛かかろうとする……




「私の上司に触れないでくださーーーーいぃ!!!!!!」


クオリアちゃんは極彩色の稲妻を杖から激しく放出し、二人に迫る巨兵達を七色に感電させた。




「クオリアちゃんナーイス!!よほ!そしてー、君達は、移動と魔術禁止だよ!!てへっ!可愛すぎて動けないの刑なのだぁ!!」


ミレアがそう言うと、真紅の鎖がさらにスコールの様にザァーザァーと現れ出し、ネットの様に軍勢全体を包み込み、全てが身動きが出来ずにいる。




「じゃあ私は、超超超ボコボコの刑だ!!!特別痛いけど、許してねっ!てへてへっ」


トドリは、巨兵達にウインクし、瞬間移動して消えたと思えば、すぐさま百人ぐらいに分身して見える程のスピードで宙を舞った。




「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!!!!!!!!!」


そして、光のような一閃のパンチを、無尽蔵に連射した。




さらにミレアは、巨大な真紅の鎖を、天空からズルズルとピンクの光と共に出現させる。


それはみるみるうちに変形し、この場で最大級に大きい大蛇へと姿を変えた。


その大蛇は、ピンクの涎を垂れ流し、縦横無尽にネットに包まれた敵軍団の間を這いずって暴れまくり、大多数の戦意喪失させていき盛大な雄たけびをあげた。




「よほ!これはラブリーな力だよ。ちゃんと受け取ってね!?のっちゅ!」




「ミレアの愛、重いわね…のっちゅ」


ミコトちゃんがミレアの真似をして言った。




「バケモンコンビだ……」


ルリメアちゃんは、ぶるぶるっと寒気がしたように震える。




見渡せば、キョウの道を塞いでた鉄壁の巨兵達はほぼ一網打尽に崩れ去っている。




「キョウさん!!リョクさんの元へ行きましょう!!」


茫然と見るキョウに、クオリアちゃんが声を張り上げる。




「お……おう!!!行くか……」


キョウは再び走り出し、私達は後を追って駆け出す。




リョクの周りを囲むボス格の赤い獣は、残り三体になった。


赤いローブを深く被った浮遊する幽霊魔術師と、半透明赤のクリオネみたいな豹、黄緑肌で赤目のエイリアンの大型種達だ。




私達は、がんじがらめで倒れている巨兵達の横をすり抜け、さらに前えと進み、どんどんリョクとの距離が縮まって行く。








そんな時だった――




「きゃあっ!!!」


怪丘さんが、響の背に向かって飛んで来た、呪いのような魔術を庇って受け、派手に吹っ飛ばされた。


怪丘さんは、いきなり顔面蒼白になり、とても苦しそうにしている……




すぐに響が駆け寄り、怪丘さんを肩に背負う。


「そんな!!!大丈夫ですか!!?怪丘さん!!?」




「怪丘さん!」


ノウコさんが疾風のように二人の傍により、近寄る赤い獣達に居合で応戦する。




ルリメアちゃんは、呪いを放った術者の獣に噛みついて、出現させた冥府の黒沼に押し込んだ。




「響ちゃん……怪我は無い……?」


うつらうつらとした顔で言う怪丘さん。




キョウは、仲間の負傷に困惑し足が止まる。




幽明はすぐさま傍に寄り、呪文を唱えた。


「イル……ドメイ……シュカーニュア……アンクリーヴァ……アーケイン……アカーシャ……アクト……ディルアクト…………アカリ」




「偉大なる魔蔵よ、さぁ今こそ、正しき神秘の浄秘術を私に与え給え!!!アクト・アーケイン・アカリ!!!」




幽明が詠唱を終えた時には、怪丘さんの周りを、霊光を纏った小さなお札が無数に回転して渦巻き、彼女から赤黒い何かを吸収していた。




怪丘さんの顔色が、みるみる元通りの健康的な色になる。




「……アカリちゃんありがと……流石ね」


怪丘さんと幽明は、拳を突き合せて笑い合う。





だが、そうしている内に私達は、赤い獣達に囲まれていた……


ヒノは頭を抱えて迷っている。


私は分かっていた。ヒノは私と同じでなるべく相手を傷つけたくなくて葛藤しているのだ。


「ヒノ、大丈夫だよ」


私は、何がとは言わず、ただ優しくヒノに頷く。


ヒノも何も言わず、ただ私を見て優しい目をした。


ヒノの拳は力を抜いて開いている……




それでも、相手は舞ってくれず、どんどん敵が増え、身動きが出来ない程に囲まれた。


私達が狼狽えている隙に、リョクを取り囲むボス格の、赤いローブの幽霊魔術師と、クリオネ大型豹が仲間を大量に引き連れてさらに追い込みをかけてくる……




私とヒノも自分自身に決断を迫られる……




そんな私達の横で、親友の響が天に祈り出した。




「女神様、どうか私の大切な仲間を守ってあげて下さい……」


響は手を組み必死に目を閉じる。




……


……




赤い獣達は、ボス格の巨大な個体を先頭に、目前までにじり寄る。


ミコトちゃんや、ノウコさんは、器用に敵達をあまり傷つけず、跳ね返すように戦ってくれているが、あまりの数と、無造作に飛んで来る攻撃にすごくやりずらそうだ。


クオリアちゃんは魔術を連射するが、背後から迫りくる敵に集中が途切れている。


ルリメアちゃんは、幽霊魔術師達に飛行を邪魔されて、ブチギレている。


幽明が召喚する鵺すら、大軍勢に追い詰められている。




私とヒノは、手を握り合って力を入れる――








その時だった……




響の頭上に、天国に差す陽のような神聖な光が、満ち溢れた。


私達も相手陣営も何が起こったのか分からず、動きが止まる。




すると、頂上で散らばって戦っていた、天の扉の存在達が私達の周りに続々と集まり始めた。




「なにこれ?」


ミコトちゃんが、天の扉の存在達を見上げて言う。




さらには、燦々と光り輝くクリスタルの飛行物体に乗った漆黒の鎧の剣士が、響に手を伸ばし出した。




「乗せてくれるんですか?」


響が不思議そうに言う。




漆黒の剣士は、こくりと頷いた。




「あら……親切ね……」


怪丘さんは相変わらず痛そうだが笑っていた。




響は、漆黒の剣士に怪丘さんを渡し、自分もそこに乗った。




「……やっぱり響は女神に好かれてるね」


幽明が、論理では説明でき無い状況にふふっと笑う。




すかさず、赤い獣達が騎士を攻撃しようとするが、何処からやってきた氷を纏う白竜が、絶対零度のブレスを豪快に私達の周囲に吐き散らし阻止した。




「真っ黒の剣士さんお願いします!!みんなも助けて上げて下さい!!」


響がそう言うと、漆黒の剣士は、天に剣を掲げ私達の周りに、光の柱のような魔術を連発で落とし出した。


とても滑らかで静かな魔術だった。


威力は禁術級だが……




一気に私達の周りは敵の囲みが無くなり、リョクまでの道も開けて来た。




「みなさん!!!私と怪丘さんは避難しながら援護します!!!ねぇ真っ黒剣士さん!?」


響は、神格の黒剣士を、お父さんか、ボーイフレンドのように扱い、後ろからギュっと抱き締めて指揮を執っている。




「あっちは大丈夫そうね。キョウ、行くなら今よ!!」


ヒノはキョウを見つめて、力強く頷いた。




「あぁ……もうちょっとだ……」


キョウは再び走り出す。




私達全員は大混戦の月面をさらに疾走した。


リョクまでもう少しだ……




リョクが近くなると、キョウは猛撃に拍車がかかり、行く手を遮る敵を、琥珀の聖剣の閃光散らす斬撃で、どんどん薙ぎ払って行く。


「邪魔だああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」





「キョウさん行けぇぇぇぇぇ!!!!!!」


クオリアちゃんは、空から集団で禁術のような強力な魔術を放って来る魔術師軍団を、濁流のような白い炎の魔術で片っ端から撃墜して行く。




「ホレホレホレーーー!!!次は誰を冥府に招待しようかなーーー???」


ルリメアちゃんが、私達の行く先に、さらに巨大な冥府の黒沼を多数出現させ、あらゆる異形の骸骨であろう者達を召喚し、赤い獣達を凄い勢いで引きずり込んでいく。


さらには、鎖で繋がれた巨大なドラゴンゾンビのような存在を顕現し、自ら手綱を握って、狂気に溺れながら、辺りを冥府一色に染め上げている。





とてもすばしっこいクリオネみたいな大型豹も空間を浮遊してキョウに接近するが、ノウコさんが複数匹、一挙に相手取り、剣王のような研ぎ澄まされた居合をかまして撃退している。


「キョウちゃん!しっかりやるんですよ!いつでも、お姉ちゃんがついてますからね!」




「サンキューだノウコ姉ちゃん!!!」


キョウの顔が段々明るくなっていく。




もう、リョクはすぐそこだ。


私達の気迫に押されて、相手も徐々に戦力が落ちてきている。


さらには、天の扉の存在達も、響の一件で完全に私達の方についているようだ。




もう、この先に私達の進行を止められる者はいない。


私達はそう思いかけていた……







リョクの周りに残った最後の一体のボス格のエイリアンが、空を見上げて、ブツブツと言っている。


すると、上空の大激闘の中から凄まじい勢いで、螺旋の道で戦ったのとは、少し色が違う超巨竜ヒュードルグがこちらに向かってきた。


私は月の周囲をざっと見渡したが、他にヒュードルグは見当たらなかったので、恐らくは、このエイリアンの最後のあがきだろうと思った。




キョウは舌打ちをし、剣を強く握った。


私も、いつでも盾でみんなを覆って守れるように意識を集中する……





ノウコさんが唐突に言い出した。


「ミコト様、少しよろしいですか?」




「何?」




ノウコさんは、ミコトちゃんにコショコショと耳打ちしている。


ミコトちゃんは、こんな状況なのに、フフフと笑いだす。




「ノウコ、とうとう狂ったわね」


ミコトちゃんはノウコさんを見上げて嬉しそうにしてる。




「ええ、元からそう言う性分でして」


ノウコさんも、ふざけるように笑う。


そして、ぎりりと地面を踏み、キョウの前に出た。




「でも、素敵よ。やってみましょ」


ミコトちゃんはノウコさんの背中に手を当てる。




ノウコさんは、ヒュードルグを前にして少しも怖気づかず、契約の呪文を唱えだした。




「ギリオドよ。デヨンヒメよ。ワレが代償により得た力、今こそ余すことなく授け給へ。この身に稀なる極限の奇跡を授けよ!!!!!」




次の瞬間、まるで居合のような鋭い衝撃派が、頂上一帯に走った。


ヒュードルグは、その気迫に圧倒され、体を引き気味にしながら月が割れそうな程の雄たけびを上げた。


ノウコさんは、右手に三日月のような神々しい刀を、左手には赤に近い桜色の怪しい刀を持ち言った。





「さっきは不覚をとりましたが、リベンジさせてもらいます」


右手の刀をヒュードルグに向けた。




ミコトちゃんが、無垢な表情で儀式詠唱を唱える。


「私に眠る偉大なる三体の存在よ。この者に奇跡の力を授け給え。この者は人にして人にあらず、あらゆる垣根を超えし刀王たる者。その極限の刃をもって、あらゆる混沌を治めんとする、不屈なる正義の意志を宿す者。その名はノウコ。すなわち、私とあなた方に仕えしツルギなり……」




ミコトちゃんの手からノウコさんの背中に、魔圧とはまた違った、超高密度の生命エネルギーが注入されていくのが見えた。


私の魔蔵視でみる限りは、もはやノウコさんというエネルギーの流れは、ミコトちゃんの儀式詠唱通り、人の域を遙に超えていた。




二人は顔を見合わせる。


「では、行ってきます。ミコト様」


「頑張ってね、ノウコ」




ヒュードルグは、巨木みたいな無数の牙でノウコさんにウツボのように容赦なく噛みついた。


しかしそれは、ただの虚空を噛む事になった……




ノウコさんは、ヒュードルグの目の前に立っている。


体格差では、天と地の差なのだが、何故かノウコさんの方が大きく視えた。




ノウコさんのオーラが揺れる……




「三柱神授・極光万界千閃――ノウコスプラッシュ!!!!!!!」




あまりの速さに、何が起こったが分からなかったが、ノウコさんの居た場所に、爪痕のような三本の光が一瞬閃光し、次の瞬間、ヒュードルグの長い全身の、側面と上部が、鋭く一直線に光り、少し間を開けてから、噴射的でとても眩しくて目を開けてられない大爆発が起きた。




そんな中で、美しき黒髪の乙女の影だけが、鮮明に光る――




「ふん。ノウコったら、最強になっちゃって」


ミコトちゃんが誇らしげに言う。




「とんでもないね……ノウコさん」


幽明が脱帽したかのように言った。




「激ヤバじゃんノウコ」


ルリメアちゃんは、口を手で押さえている。




「ノウコ姉ちゃん……俺より強いじゃんか……」


キョウは、愕然として見ていたが、我に帰りすぐさまリョクの方に向かう。




「きゃーーー!!!落ちて来るわよ!!!」


ヒノがそう言った時には、ヒュードルグの体は、ぐでんと力を無くし、大混戦続く、月の頂上へと盛大に落下した。




轟音と共に砂煙が立ち込め、最強であるヒュードルグが倒れるさまをみて、赤い獣達の戦意が喪失して行く……




ノウコさんが戻って来た。




「やり過ぎましたかね……」


倒れるヒュードルグを見て苦笑いする。




ミコトちゃんは駆け寄り、何も言わずノウコさんのほっぺにチュっとした。


ノウコさんはミコトちゃんをギュっと抱き締める。









とうとう私達はリョクまで辿り着いた――




目の前には、黄緑肌の一体のエイリアンのみだ。




「どけ……」


キョウが言う。




「姫君は渡さぬ」


そのエイリアンは断固とキョウの前に立つ。




二人は睨み合い、一歩も動かない。


無言の緊張が続く……






私達は、そのエイリアンをキョウに任して、後方に向き直る。


しかし振り返れば、私達の通ってきた道には、赤い獣の軍勢がバタバタと倒れて立って戦う者は少なくなり、統率のとれなくなった残りの獣を、天の扉の存在達が追い詰めている。


リリスやゾアリア、トドリにミレアも無事に生き残ってくれ、手を振りながら、こっちへ走って来る。


上空には響と怪丘さんを乗せた黒騎士が、静かに待機してる。


そして、頼もしい二つの影も降りて来た。




「フィジャナーク!!!」


ヒノが飛び上がって抱き着く。




「ルーレンジさん!!」


続いて、ノウコさんも刀を振って笑顔で飛び跳ねる。




「なかなかに手強いやつだった……クリシュマヒノ、無事か?」


フィジャナーク王はそう言って、ヒノに柔らかい笑顔を見せた。




「無事よ!兄様勝手にどっか行かないで!!」


ヒノは泣きじゃくり、フィジャナーク王の胸をポカスカ叩いている。




「ああ……これからはそうするさ……兄としてな」


フィジャナーク王は、不意に私を見て、微笑んでそう言った。




「我も、久しく真に迫る戦いが出来たわ、フィジャナークよ其方はまっこと強いな」


ルーレンジは、ケケケと笑った。




「あんたもな。フッ」




なんだか、急に男の友情を見て、胸が熱くなった私。




「だが、これは……」


フィジャナーク王が、先程墜落したヒュードルグを指差して言う。




「ああ、ノウコさんがやったの。一人で、一撃で」


ヒノがあっけらかんと言う。




「これほど美しく、これほど強いものがいるとはな……」


フィジャナーク王は、見惚れたように言う。




「やはりな……まさに黒翼の戦女神じゃな。おっかない。ハハハ」


ルーレンジは高々に笑う。




ノウコさんは、真っ赤になった顔を、刀を持つ腕の肩口で覆い隠した。




私達は全員は一挙に集まり、僅かに迫りくる敵をキョウに近寄らせない無いように、援護する。







「マジでどけ。次はねぇぞ」


キョウがエイリアンに詰め寄る。




「どかぬ、我等は姫君に命を懸けると約束したのだ。通りたければ我を倒せ」




「そうか……」


キョウが、剣を突きつける音がした。




その時だった……


リョクが叫んだ。


「もうやめて!!!!!」




涙で滲んだ声だ。




「やめねぇぇぇぇぇ!!!!!!」


キョウが大声で怒鳴った。




「なんで!!?もう無理なのよ!!!」


リョクが怒鳴り返す。




「何が無理なんだよ!!?」


キョウはさらに怒鳴り返す。




「呪われてる私の居場所なんて、この世界に、ここにしかないのよ!!!」


リョクの怒声には悲しみが詰まっている。




「誰がそんな事言ったんだよ!!?」


キョウは食ってかかる。




「世界よ!!!世界中だよ!!!みんなして私の事をいじめるじゃない!!!」




「俺がお前をいじめた事があるのかよ!!!ずっと仲良しだったじゃねーか!!!バカがつくぐらいによぉ!!!」


キョウが叫び散らかす。




キョウの目の前にいるエイリアンは、ただ黙って聞いている。




「キョウちゃんだけが仲良しじゃ意味無いの!!!それにキョウちゃんだって


私の話、マトモに聞いてくれなかったじゃない!!!」


あの落ち着いた雰囲気のリョクが、大粒の涙を流して子供みたいに泣いている……




「それは!!!……すまなかった。俺が悪い」


キョウが静かに謝った。




「今更遅いよ……」


消え入りそうな声でリョクが言う。




「でもよ……俺はお前の事がホントに好きだったんだぜ……?お前はスゲー面白い奴でさ、しかもいっつも超優しいんだ、こんな俺なんかとも仲良くしてくれるぐらいだしな。俺ずっと嬉しかったんだよ。お前と友達になれて……」


キョウは、ポタポタと涙を流し、素直な気持ちをリョク伝える。




「私だって嬉しかったよ……でも、そんな幸せも許してくれない程に呪われてるんだって!!!」




「そんな事ねーーーよ!!!お前はまだ生きてるし、みんなもこんなとこまで迎えに来てくれたんだぞ!!?呪われてたらぜってー、こうはならねーって!!!」




「……」


リョクが私達を見た。私は手を振って微笑む。




「少なくともここに居るみんなは、お前が好きで仲間と思ってるはずだ!!!じゃねーと来る訳がねぇ!!!」




みんなもリョクを見て微笑んだり、手を振ったりする。




「みんな……」


リョクの表情が、恐れから寂しさに変わった。




「だからもう戦うなよ。どんなけ呪われてても、きっと俺がお前を守りきるから!!」


キョウは誓いの様に剣を振り払った。




「キョウちゃん……」




リョクの足元の暗黒物質が引いていってる……




「姫君いけません。戦いを辞めれば、貴方様はすぐに天の者共から攻撃を受けるでしょう。貴方様を守れるのは我が同胞のみです。貴方様に眠る猛烈な衝動が肯定されるのは血星界のみなのです」




「そうね……ギャノウェ」


暗黒物質は再び元に戻る。




確かに……リョクが戦いを辞めても、天の扉の存在は当然とリョクを狙うだろう。




「リョク……お前は何を望んでいるんだ?」


キョウはリョクに問うた。




「私は……私は……笑っていたい……の」




「ホレ見ろ。姫君はありのままの自分で笑っていたいのだ」


ギャノウェは勝ち誇ったように言う。




「お前は何もしらねーんだな」


キョウが、ギャノウェに言った。




「何?」


ギャノウェはキョウに、にじり寄る。




「リョク。俺にはわかるぜ。お前は最強の軍団を持って、自分の衝動のままに生きてもその願いは叶わねーぞ。お前は誰よりも優しい奴なんだ、ずっと近くにいた俺は知っている。色んな奴を傷つけた上で成り立つ場所で、本気で幸せに笑えるはずがねーんだよ!!!」




「……そう……そうかも……キョウちゃん」


リョクの足元の暗黒物質は一気に引いてきた。




「貴様!!!!!」


ギャノウェは、キョウに襲いかかろうとする。




「ギャノウェ、やめて」


リョクが冷たい声で言った。




「姫君よ??もしや、我等を見捨てるおつもりですか??」


ギャノウェが悲壮な声で言う。




「あなた達も戦わない私は嫌いなんでしょ?」


リョクがギャノウェに寂しそうに言った。




「それは……」


ギャノウェが頭を抱える。




「リョク、お前はマジで呪われてなんかいねーよ。それはお前が一番知ってるはずだ。さっき心底感じたんだろ?誰かを傷つけた上で笑えねーって。そんな優しい奴が呪われた存在なんてあり得ねーぜ!胸張れよ!それが本当のお前だ!!」


キョウは、すがすがしい声でそう言った。





「そうか……私は呪われてないんだ。私は誰にも傷ついて欲しくないんだ。誰よりも強くあって、みんなを守りたいんだ」


リョクの表情が、みるみる勢いづいていく。




「そうだぜ!お前は強くもあるんだ。そんで誰より強くもあってもいいんだ。


その猛烈な衝動を抑えなくていい、存分に生かして、お前の同胞や、みんなを守ってやりゃあいいんだ。最強に強くて優しくなってみろよ。お前の望みはきっとそうだぜ、ダチの俺にはわかるよ!!」


キョウは、悪友のような笑みを浮かべた。




リョクは高笑いし出す。


私達も、ギャノウェも何事かとリョクを凝視する。


キョウだけが、全て分かったような顔をしている。




「クククク!!!!!!!!キョウちゃんナイス!!!!!!私は今分かったわ。全部スッキリした。まるっきりあなたの言う通りよ」




リョクはさらに高笑いすると同時に、真っ赤な右目がビカビカと凄まじく輝き、足元の暗黒物質が凄まじくうねり出した。




そして、その暗黒物質からスルスルと、神々しい刃を持つ太刀が出現した。


それは、十メートル程の長さになるが、リョクは簡単に片手で持っている。


太刀の刃からは、メラメラと赤い霧が溢れ出している。




リョクはそれを天に掲げる。


その顔は、今まで以上に無い程、嬉しそうで楽しそうだった。


キョウもそれを見て笑っている。




リョクの頭上の天空がパッカリ裂け出した。


丸々と空間が空き、そこからある存在達が顔を出す。


それは、数十を超える、ヒュードルグの群れだった。




一瞬私は、リョクが闇堕ちしてしまったのかと思う程に恐ろしい光景だった。


周りのみんなも、とても神妙な顔つきをしていた。


キョウのみが笑っていた。




リョクは、大声を張り上げて言った。


「聞け!!!ここに居る我が同胞達よ!!!如何なる相手も傷つけてはならぬ!!!そして、ここにいる如何なる者達よ!!!決して我が同胞を傷つけてくれるな!!!皆なんぴとたりとも、これ以上の痛みを追ってはならぬ!!!!!破った者は、血星界の女王であるこの私と、我が未曾有の歴戦の兵共が、直ちに裁きを下す!!!」




頂上にいる全ての存在も、赤い月を取り巻く上空の存在達も、リョクの言葉をじっと聞いている様だった。




気が付けば、全ての攻撃が止まっていた。




「ああ、女王が還られた」


ギャノウェは跪いて、リョクにひれ伏している。




「それでいいんだ!!!かっけーぞお前!!!」


キョウは大きく手を振った。




リョクは笑って手を振り返す。


そしてすぐさま、ヒュードルグ達を空間に戻し、神々しい太刀は放り投げ、足元の暗黒物質は全て綺麗に消し去った。




それを見ていた全ての存在は、もう戦いは終わったと言う風に、ただ何もせず彷徨っている。




私達はリョクに駆け付ける。


リョクは疲労のせいか、緊張が抜けてか、ふらふらとして倒れそうになる。


キョウが抱き締めて抱える。




「キョウちゃん……ありがとね」


リョクは薄目を開けて言う。




「ああ、お前はやっぱ最高のダチだ」


キョウは、リョクの額を撫でて笑った。




「みな、戦闘を辞めたみたいだな……」


リリスが一帯を見渡して言う。




「そうね、とても平和な感じがするわ……」


ゾアリアはとても穏やかな顔をする。




「みんなお疲れ様。これで解決かな……?」


幽明が伸びをして言う。




みんなは、くたびれた顔で、うんうんと頷いた。




「うん、ハッピーエンドじゃないかな?」


私は、笑いながらみんなの顔を見た。みんなも同じ顔だ。





その時だった――





「ハッピーエンドだね。うん。君達やっぱり凄いよ」


ルオクが拍手しながら現れた。隣にはアーテマがいる。




「ルオク……お前」


幽明がにじり寄る。




「よほ……」




「アーテマ……こんなとこで何してるんだ?」


リリスが、目を細める。




「アーテマ?迎えに来てくれたの?」


ゾアリアが近寄ろうとするが、アーテマは俯いている。




「二人は復活し、みんな仲良しになって、幸せにハッピーエンド。ボクはちゃんと願いを叶えたみたいだねアーテマ?じゃあ、そろそろ代償を払って貰おうかな?


君がどんな風に、ボクの願いを叶えてくれるか楽しみだな。ハハ」




全てが争いを終えた中で、ルオクの優しく喋る声だけが、何故かとても不気味に聞こえた……

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